第4話 その名はコマシくん

“お箸で食べるフレンチ懐石”のお店で私達はランチをいただいた。


 小牧女史も酒匂チーフも私が話しやすいようにと専ら仕事の話がメインだったのだが……作務衣のギャルソンが女史のところへスーッとやって来た。

「お連れ様がお見えです」



 入って来たのは若い男性で……同じ社の人……ライセンスデザイン部の有名な人……そのあだ名は知っている!『コマシくん』だ。


 今朝もパウダールームで噂になっていた…悪い噂で……


将司まさし!遅かったじゃない」


 は私達をチラッと見てから言葉を返す。


「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。セ・ン・ム」


 その言葉の色に小牧“専務”はため息をつく。


「あなた……今度は何をらかしたの?!」


「それは……」


 コマシくんも私達が同じ会社の人間だと見知っているようだ。そして噂が正しければらかした内容は……


「女性の目の前でそんな“女の腐った様な”態度は止めなさい!」


 コマシくんはちょっと首を傾げて小牧専務に白状した。


「孕ましちゃった……女の子を」


 専務は大きくため息をついた。

「当たり前でしょ! オトコは孕まないし、あなたがオトコ好きって話も聞いた事は無い! で、どこのお嬢さんなの?!」


「本社の経理の天地さんって


 私と酒匂チーフは思わず顔を見合わせた。

 言っちゃ悪いが“天地”の悪名は高い。


「その天地さんとは……結婚の約束はしてるの?」


 コマシくんは頭を振る。 そりゃそうだろ!


「お腹の子供はどうするの?」


「カノジョは産むと言ってる」


「じゃあ責任取って結婚でもなんでもするんだね。私は喜んでご挨拶に行くよ。」


「そんな! ちょっと待ってよ!母さん!」


「専務です!」


「んなに怒んなよ……」


「怒るに決まっているでしょ! そりゃ私はキミに言った事がありますよ!『セックスはスポーツみたいな側面があるって』」


 <……おいおいどんな親だよ!>


「でもスポーツにはルールがあるの。ルールを破ったらレッドカード、退場でしょ!」


 その言葉には私と酒匂チーフは肩を竦める。


「あの……専務! ちょっといいですか?」と落ち着いた声で酒匂チーフが声掛けする。


「ああ、ごめんなさいね! せっかくあなた方に来ていただいたのに……」


「いえ、そうでは無くて……今の天地さんとのお話、何かウラがあるかもしれません」


 コマシくんはその言葉の尻馬に乗る。


「ほらっ!やっぱりそうだ!オレ、ちゃんと避妊してたもん!」


「やめなさい! お嫁入り前のお嬢さんたちの前で!!」


 <いやいや その前に充分話聞かされてますが……>


 小牧専務は本当にすまなそうに私達を見た。


「こんな事に巻き込む事になって大変申し訳ないのだけど……事の真相を確かめたいのです……このバカな親子を助けると思って……どうか力をお貸しください」


 そうして小牧専務は深々と頭を下げた。

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