その29 呪われた家

 その廃屋に行ってはいけない。


 大人たちから、僕たちには何度も言われていた。

 子どもたちの間では「入ると呪われる」とか「幽霊が出る」とか言われていた。

「おい、あの幽霊屋敷に行ってみないか?」

 友人たち、僕とA、B、Cが集まっているとAが言い出した。

「でも、ちょっと怖くないか?」

 Bが不安そうな表情を浮かべた。

「いいね。行こうぜ」

 Cは軽い調子で同意する。僕もそれに続いた。

「多数決では決まりだが……B、お前はどうする?」

「……分かったよ。けど、何かあったらすぐに引き返す」

「了解。これで決まりだな」

 Aは満足そうにうなづいた。


 決行は翌日の午後、学校が終わってからだった。

 僕たちは各々で懐中電灯等を用意していた。窓は板で塞がれていたし、中は暗いと思ったからだ。

「よし、探検を始めよう!」

 Aが言うと、まずは入口を探し始める。

 入口も板で塞がれていたが、Cが持ってきた釘抜き等の工具でそれをがす。

「入るぞ!」

 Aが威勢よくそう宣言して中に入る。次にC、僕、Bと続く。

 中は予想通り薄暗く、埃っぽかった。それに、どこか空気が重苦しい感じがした。

 僕たちは懐中電灯をけると各々で中を見て回った。

 腐った畳の上に何かの瓶が幾つもあった。中には割れている物もあった。

 ひび割れた土間には、ガスボンベのような物が多数転がっていたが、それも錆びて、穴が開いている物もあった。

 しかし、一向に幽霊の気配はない。

 重苦しい感じはするものの、それ以上のことは起こらなかった。

「もう、出ようよ……」

 Bがそう言うと、皆が同意した。全員が外に出た。

「結局、なんにもなかったな……」

 Cがつまらなそうに言った。

「ああ、そうだな……ゲホッアアア!」

 突如、Aが嘔吐おうとした。そのまましゃがみ込む。


 まさか……呪い!?


 僕たちは顔を見合わせた。

「も、もう……大丈夫だ。だから……秘密に……」

 口ではそう言っていても、顔色からそうではないことは明らかだった。


 その後、四人とも体調を崩した。

 嘔吐や下痢げり、頭痛等――症状は様々だったが、それぞれ三日から一週間程寝込んだ。

 僕は一時期死ぬのではないかと思ったが、なんとかおさまった。

「あの家に入ったのか!?」

 Bが喋ったらしく、僕の親にもそれが伝わった。

 僕は父親から酷く叱られた。

 あの家は、近くの薬品工場の資材置き場のようなものだったが、その工場が倒産して放置されたそうだ。

 夜逃げ同然の倒産だったため、所有者不在で撤去もできず、中の有毒な薬品類も放置された。僕たちが体調を崩したのは、壊れた容器から気化したそれらを吸ったせいだった。

 噂を広めて悪用されることを恐れた大人たちは、理由を告げずに子どもたちが近付かないようにしていたのだという。

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