その26 ゴースト

「ほ、本当に頼めるのか!?」

 電話口の声は震えていた。

「はい。期限厳守、秘密厳守で対応致しますので、ご安心ください」

 私は手慣れた様子で答えた。

「ううむ……本当に、私の書いたようにできるのか?」

「はい、もちろんです。先生」

 このやり取りも何度目だろう。新規顧客の度にしている気がするが、信じられないのも無理はないだろう。むしろ、信じたくないのかもしれない。

 私はゴーストライターだ。それも、日本語なら相手を選ばない。どんな作家の作品でも対応できる――というのが最大のウリだ。

「それで、今回はどのような物をお望みですか?」

「そ、それが――」

 客が言った内容を記録する。内容、枚数、期限等。

「それで、料金の方ですが――」

 私は口止め料込みの使用料を口にする。

「そんな……ちょっと、それは……」

 客が渋る。面倒だが一押しするとしよう。

「先生なら、払えない額ではないでしょう? 印税に比べたら微々たる額……誤差程度でしょう?」

 しばしの沈黙。私は答えを待った。

「分かった! その金額で頼む!」

 良し。これで一安心だ。

「分かりました。それでは期日までに――」

 私は振込口座を伝え、原稿の送り先を確認すると電話を切った。

「さあて、忙しくなるぞ」

 私はPCの本体を軽く叩いた。


 後日、完成した原稿が作家に送られ、出版社から推理小説として出版された。

 誰も、その作家の作品でないと疑わなかった。出版社の担当編集者はもちろんのこと、それを読んだ読者や書評家も。依頼した作家でさえ「ゴーストライターとは思えない」と評した。

 私は満足してエゴサしていると、その感想の中の一文にクスリと笑った。それは「生身の人間の書いた文章には、まだまだAIでは及ばないと確認させられました」というものだった。

「お前、人間だったっけ?」

 私はPCの本体をコツリと叩いてそう言った。

 私の呼びかけ答えるかのように、本体のLEDが何度かまたたいた。

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