その5 最期の救い

「――あと三ヶ月です」

 淡々と告げられた余命に、私は愕然がくぜんとした。

「そ、そんな! ……なんとかなりませんか!? 妻や子も居るんです!」

 私は医師にすがりつくように言った。

「こればかりは……」

 医師は困ったというように顔をしかめた。


 こうして、その日から私は入院することとなった。

 確かに、近頃体調がおかしいとは思っていたが、仕事が忙しかったので病院に行こうとは思っていなかった――その結果がこれだ。

 まあ、いくら悔やんだところで寿命が延びる訳でもない。

 今日は妻が様子を見に来てくれていた。

 妻の顔は暗い。病人の私よりも。

 妻はベッド脇の椅子に座ると、息子のことを静かに報告する。

 ガラリ。

 その時、突然病室の扉が開いた。見知らぬ老婆が入ってくる。

「おやおや、死の匂いがするねえ」

「病室をお間違えではないですか?」

 妻は丁重に対応した。

「いやいや……ここから、死に近い人の気配を感じたから……お前さん、もうすぐ死ぬんだろう?」

 老婆は私に向かって言った。

「出て行ってください!」

 妻が声を荒げる。

 その様子を気にしたこともなく、老婆が言った。

「どうだい? その寿命、少しだけ延ばしてあげようか? ……安くはないがね」


 妻は詐欺だと言ったが……私は、わらにも縋る思いで老婆の申し出を受けた。

 老婆は祈祷きとうだと言って、祭壇のような物を用意し、怪しげな呪文を唱え、何やら水のような物を撒き散らした。

 それが終わると、老婆は言った。

「これで、三ヶ月ぐらいは延びたかねえ」

「これだけ払って、それだけですか……」

「文句を言うんじゃないよ。人の寿命を延ばすのは、大変なことなんだよ」

 その後、三ヶ月と言われていたのに、私は半年生きた。

 確かに延びたのはわずかな期間だったが、私はそれでも良かったと思った。


「へっへっ……いつも短く言ってもらってすまないねえ」

 老婆は医師に厚みのある封筒を渡しながら言った。

「いえいえ、ボランティアの様なものですよ。短かったらともかく、長くなれば悪く言う人は居ませんから」

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