第19話 私たちは家族なんだよ

 ゲイルの言葉に、ナルは少しだけ驚くも、笑って頷いた。


「昔、君に言った約束を破ることになるね」


「いいんです。私も、貴方が言わなくても考えていたことですから」


「カイン、シーア。私たちから最後に伝えさせてくれ」


 いつの間にかカインとシーアの前には、ゲイルとナルが立っていた。


 その目が真摯に二人を見つめている。


 シーアも、その意味に気がついた。


 両親は今から最期の力を振り絞って、二人を逃がすつもりだと。


 自身の命をも、賭けて。


 カインは声を出すことが、出来なかった。


 その言葉を邪魔してはいけないと――二人の、を。


「カイン、シーアを頼む。それと君に伝えることがある。私たちは家族だ。常に二人のことを見守っている。それが、親が子から貰える特権だからな」


「シーア、貴方はもう一人前の魔導師よ。これを――貴方たちは私たちの自慢の子供たちよ」


「父さん、母さん…………ウチも二人の子供でよかった。沢山の楽しい思い出をくれて、ありがとう!!」


 ナルから受け取ったワンドを握り締めると、シーアは泣き崩れた。


 この結末は塗り変えられない。だからこそ、シーアは心に刻みつけていた。


 親の最期の温もりを。


 カインは、せり上がる嗚咽を必死に押さえ込んで、二人の姿を目に焼き付ける。


 その姿を見て、二人は優しく笑った。


「最後に一言だけ伝えたい。カイン・シュベルト。例え君が魔法を扱えなくとも、この世界に存在することが君の証明だ! いつでも君は魔法と共にここにいる。だからさ、カイン……君と私たちは


 それは、どこか不安だった言葉。


 認めたくない現実。


 人と異なる性質を、今、認められた。


 胸を張れと。


 卑下するものでもないと。


 何も、違ってなどいない、と。


「俺は……みんなと、同じ……っ」


 堪らない。


 最後の最後に、堪らない。


 堪らなく――いなくなって欲しくないと思った。


 それでも、カインは言葉を呑みこんで口にした。


「今までありがとう、ゲイルさん、ナルさん」


 その言葉で、二人は安心した表情をした。


「シーア…………」


 ゲイルは、シーアの頭を撫でる。


「ごめんね……守れなくて、ごめんね……」


「何言ってるのよ。もう十分守られたわ。それに、親は子を守るもの、でしょ?」


 泣きながら謝るシーアに、ナルは優しく微笑みかける。


「シーア、カイン……元気でね」


 もう、お別れだ。


 カインは、シーアを連れて走る。


 大魔導師アークメイジから逃げる上での不安はもうない。


 何と言っても、が守ってくれているのだから。


 天より堕ちる炎を前にして、クライン夫妻は一つのスタッフを握り締める。


 ここからが、である。





 君も守りたかったが、どうやら力不足だったみたいだ。すまないね。


 私こそ、ゲイルを守る女であろうと思っていたんですよ、ふふ。


 全く君には敵わないな。本当に、一目見たその時から……ね。


 私もですよ。愛しています。ですから、後はあの子たちのために捧げましょう。


 ああ、あの子たちはいつの間にあんなにも強くなったのかね。


 子供は急に成長すると言いますし。寂しいんですか?


 いやいや……と言いたいがね。本当はもう少しだけあの子たちの成長を見ていたかったよ。


 そうですね……でも私、あの子たちに自信を持って言えることがあるんですよ。


 奇遇だね。私も一つあるぞ。


 なら、一緒に言いましょうか。


 お互いを見つめ合いながら、「せーの」と口にする。


 ――私たちの子供あの子たちを『愛している』。





 が墜ちる。


 途端、眩い光が辺りを照らし、瞬間、全てが無かったかのように消え去った。


 空にある炎も、地上に蔓延る火炎も、そして――二人の偉大な両親たちの姿すらも。


「一体何が……!? 既に魔力は底を尽いていたはず。まさか、己の命を糧に魔法を行使したとでもいうのかッ!!」


 この世界に存在するありとあらゆるものは、魔法で創られている。


 誰もが習う、この世の理であった。


 であるのなら、内側に魔力が無いのなら、外側を使えばいい。


 それが、ナルが構築した魔導術式――最大八節分の言葉を捧げる〝最愛の魔法〟であった。


 その覚悟を、大魔導師アークメイジは理解出来ない。


 従って、何故二人がそのような愚行に出たのか、答えに辿り着くことはないだろう。


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