第23話 周囲の人達の反応

宵宮悠二視点


夜。

シャワーを終え、ソファでゴロゴロしていたところに、スマホが震えた。


画面に表示された名前は──梨音。


「ん……梨音? どうした?」


『先輩……詩織さんのことなんだけど……』


静かな声だった。

何かあったかと思い、少し身を起こす。


「詩織? ……ああ、その件か。もしかして、帰り道で会ったか?」


『はい、少しだけ。でも相談とかじゃなくて……ちょっと話してて……』


梨音の声はどこか言い淀んでいて、続く言葉を待っていると──


『“もう少しだけ、私のそばにいてください”って、朝宮先輩に言ったらしいです』


「……そっちもかよ」


『“そっちも”?』


「……ああ。今日、放課後に新からその話を聞いた」


それを聞いた梨音の声は、若干呆れの色を帯びていた。


『……もしかして……新先輩も?……』


「なあ、梨音……お前も思ったろ?それって、ほぼ告白だって」


『思いましたよ。普通は“練習”とか“頼りたい”とかじゃなくて、

あれは……かなり本音ですよね』


「新はさ、“嬉しい”って言いながら、“そんなつもりはない”って平気で言いやがったよ」


『詩織さんも“そういう意味じゃない”って自信満々でした』


しばし沈黙。

それぞれが、詩織と新の“天然炸裂”なやり取りを想像していたのかもしれない。


「……まあな、詩織もそういうの慣れてないし、新も詩織のことを高嶺の花扱いしてるからな。

自分が釣り合うと思ってない」


『……わかります。わかるけど……この、なんとも言えない“もどかしさ”』


「だろ?」


苦笑しながら頭を掻く。

この二人に首を突っ込むのも野暮だと分かってはいるのに、放っておくのも性に合わない。


『……なんというか、知りたくなかったとは言わないけど、知ってしまったら気になるんですよね』


「わかる。

でも、あいつら──似た者同士だよ。

不器用で、天然で、だけど人のためなら全力で動けるところとかさ」


『……本当に、“お似合い”だと思います』


お互い、自然に笑いが漏れた。


「でもさ。今日の詩織、よかったな」


『はい。……すごく、いい笑顔でした』


「そりゃあな。好きなやつができれば、誰だってああなるよ」


『……浮気ですか? 先輩』


「ちげーよ。

俺が言ってるのは、“お前”の笑顔のことだ」


『ふふ……ありがとうございます』


少しだけ照れたような声の向こう。

今日一日、いろんな想いが交錯していたけど──

それでも、こうして誰かが笑えているなら、それでいいんじゃないかって思えた。


「……あいつら、どうなるかな」


『そうですね。でも、見守っていたいです』


「だな」


画面の向こうからは、もうすぐ切れる気配。

でもその静けさも、心地よかった。

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