第5話 喫茶店の看板娘

「新、着いたぞ」と、悠二が言った。


放課後、悠二に誘われてやってきたのは、街中に佇むレトロな外観の喫茶店だった。

店名は『喫茶店ディスカポネ』。古めかしい木製の看板に、その名が柔らかな筆文字で書かれていた。


悠二が扉を開けて中に入ると、黒髪を肩まで伸ばした和服姿の女性が、穏やかな笑顔で出迎えてくれた。──どうやら、これがここの制服らしい。


「いらっしゃいませ!──あれ、悠二君、久しぶりだね。そちらはお友達かな?」


「はい、こっちは朝宮新。高校の友人です」


「は、はじめまして」


「こんにちは。私は千町結花せんじょう ゆいか。この喫茶店のオーナーだよ」


「結花さん、あいつは?」


「ああ、あの子は今着替え中だから、もうすぐ来る頃じゃないかな」


「じゃあ、俺たちは奥の席にいるんで」


「ああ、なるほどね。ゆっくりくつろいでいってね」


「なあ、悠二。ここって一体……」


「まあ、見てろって」


そう言っていると、奥の扉から「おまたせしました、結花さん」と、聞き覚えのある声がした。


「よし、今だ」とばかりに、悠二が手を挙げて店員を呼んだ。


──現れたのは、和風にアレンジされたメイド服──いわゆる「和メイド服」に身を包んだ三津原さんだった。


「はーい、ご注文を承ります……ね……? 悠二君に……朝宮君?」


「よ、遊びに来たぞ」


「こ、こんにちは……」


三津原さんは最初、プロのように笑顔で接客していたが、俺たちだと気づくと目を見開き、顔を真っ赤に染めた。


「ど、どどどどうして!? ここに朝宮君がいるの!?」


悠二はまるで悪びれる様子もなく、「客だからかな、なあ、新?」と俺に同意を求めてきた。


「う、うん……」


すると三津原さんは、責めるような視線を結花さんに向けた。


「結花さん! なんで言ってくれなかったんですか!」


結花さんは、わざとらしく少し考え込んだ後、にっこりと満面の笑みを浮かべて言った。


「そっちのほうが面白いからかな?」


「うにゃぁぁぁぁぁ!」


三津原さんは、茹でダコのように顔を真っ赤にして、情けない声を上げながらキッチンへ逃げるように戻っていった。


悠二は、いたずらが成功した子どものようににやにやしながら言った。


「な、良いもの見れただろ?」


新は、少し戸惑いながら答えた。


「それは……そうだけど、悠二……三津原さんがかわいそうだよ……」

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