2-1.アルバ村
「なんだか騒がしいね」
村へ辿り着くなり、ヴァニタスはそう呟く。
「何かあるのか……少し、聞くことが出来ればいいんだが」
「いつもはこんなに賑やかじゃないの?」
喧騒に耳を取られながら、ステラは母に尋ねる。
「ああ、そこまで居住者の多いところでもないからね。だが、ここまで声が多いのも珍しい。久しぶりに来たからそう感じるだけか……」
考えているヴァニタスの肩を、小さな手が一つ、ポンと叩いた。
「よぉう! ヴァニじゃないかい! 入口に突っ立って何してんだい?」
「ああ! マルシャン、久しぶりだね! 会えてうれしいよ」
明るい茶色に光った髪を三つ編みでまとめておさげにしている女性は、ヴァニタスからの言葉に眩しい笑顔を見せた。
「ああ、私も嬉しいよ。しばらく来てなかったよね、ゆっくりしていきな……って、今日は連れが居るんだね」
マルシャン、と呼ばれたその女性はステラの方を覗き込む。
「私の娘さ、ステラって言うんだ。ほら、挨拶しなさい」
「あ、あの……ステラって言います。よ、よろしくお願いします」
人見知りをして、たどたどしくなっている挨拶を聞き届けてから、女性はステラに向かって満面の笑みを見せる。
「ステラって言うんだね。ヴァニから話は聞いているよ。母親に似ず、可愛い顔してるじゃないか」
「そ、そんな……」
顔を赤くして照れる素振りを見せ、母の陰に隠れる。
「何恥ずかしがってんだか。って、そんなことよりもマルシャン、今日は随分騒がしくないか?」
ヴァニタスの言葉に半ば呆れた顔をする。
「あんた……知らずに来たってのかい? まったく、これだから森暮らしは」
「そう面倒がるなよ。教えてくれ」
「とりあえず歩きながら話そうか。家に来た方が良いだろうし」
そう言って前に進んで先導し始めた。
「それで、何があるんだい?」
殆ど物の並んでいない露店を物色しながら、今一度マルシャンへと問いかける。
「今、監査官が来てんのさ。この時期はいつだってそうだろう」
「ああ、そういうことか……だが、それにしても騒がしい。というのに、ほとんど店が出ていないじゃないか。少し妙だよ」
「けっこう、珍しい客人が来ていてね。皆そっちにかかりっきりなのさ。あんた調達に降りてきたんだろうけど、今は碌に買い物もできやしないよ」
その言葉に残念そうな様子を隠さない。
「別日にするんだったよ。面倒な日に当たっちまったね」
「……母さん、買い物できそうにないの?」
「ん? そうだね、まあどうにかしなきゃねえ」
心配そうに覗き込むステラに笑って話す。
「だから、今家に向かってんだよ」
マルシャンが口を挟んだ。
「どういう事だい?」
「前日に買い込んでっからね。少しくらいなら分けてやれる。次に森から出てくるのが早くなるだろうけど、それでいいんなら」
ヴァニタスは申し出に目を輝かせる。
「いいのかい? 有難くちょうだいするよ!」
「貸しだからね。次来た時に何か奢ってくれよ」
もちろん、と返して二人でマルシャンの後を追った。
マルシャンの邸宅は村の南西部、中心からすこし外れた所に位置している。石煉瓦の壁と木板の屋根で作られた小さめの一軒家で、少し広めの庭には二人分の洗濯物が風に吹かれてひらひらと踊っていた。その庭先の腰掛に一人の少女が見えると、マルシャンはその子に向かって声を投げかけた。
「ユニ! 帰ったよ!」
「お母さん、おかえりなさい。そちらの方たちは?」
マルシャンと同じく、綺麗な茶髪を大きく三つ編みにして左肩から流している少女は、マルシャンを母と呼称して質問を返した。
「私の友人のヴァニタスと、その娘のステラだ。普段は森に住んでる」
ああ、と納得し身体を向ける。
「初めまして、ヴァニタスさん。母からお噂はかねがね聞いております」
丁寧なお辞儀を見せた。
「ユニちゃんかい? 前に会ったのはまだ赤ん坊の頃だったけど、こんなに大きくなってるなんてね……子の成長ってのは早いもんだ」
「いやだねヴァニ、婆さんみたいなこと言って。まだまだ若いだろうが」
感慨にふけるヴァニタスに、マルシャンは笑い飛ばして言った。そんなやりとりが行われている中で、ステラは少女に目を惹かれていた。
初めて見る同世代の魔女。ヴァニタスとは違い、まだ顔に幼さが残っているその者に、ステラは珍しさからか、見惚れてしまっていた。
「ほら、ステラ。あんたも挨拶しないかい」
母から声がしてようやく我に返ると、しどろもどろに言葉を継ぐ。
「あ、私、ステラ! 森から来たの! よ、よろしくね!」
ぎこちない挨拶に母が笑う。少女も、小さく微笑を見せていた。
「よろしくお願いします」
「こないだ買い込んだのを渡すから連れてきたんだ。運び出すから、手伝ってくれ」
「わかった。何から運ぶの?」
挨拶を済ませて母の後を追うユニ。それをヴァニタスが呼び止める。
「なんでしょう?」
「貰うだけってんじゃ申し訳ないよ。ユニ、私がマルシャンを手伝うから」
「それは、大丈夫です。お客さんに手を煩わせるわけには……」
母の方をちらりと見る。
「いいよ、ユニ。ご厚意に甘えときな」
そう言われるとユニは申し訳なさそうにヴァニタスに向かった。
「それでは、お願いします。ヴァニタスさん」
ああ、と返事をして奥へと進んでいった。
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