第一章 第2話:「森の中の出会い」
朝日が差し込み始めた森の奥深く。ユウマは落ち葉と湿った草を踏みしめながら歩を進めていた。空腹と喉の渇きが体力を蝕んでいたが、それよりも周囲の異様な静けさの方が気になっていた。
(野生動物の気配がない……?)
それは、異常だった。あの《ゴア・ボア》のような大型魔獣が一匹いたというのに、他の生物がまるで姿を見せない。まるで、何かが恐れられているような沈黙。
そんな中、小さな川のせせらぎの音が耳に届いた。
「……水があるか」
川辺に膝をつき、手で水をすくう。冷たく透き通るその水を口に含みながら、ユウマはふと顔を上げた。
誰かが、こちらを見ていた。
木陰に立つ、ひとりの少女。長い髪は淡い桜色。白いエプロンドレスが陽光に淡く輝いている。彼女は驚いた表情のまま、しばらく動かなかった。
「……人、だよな?」
声をかけると、少女はようやく口を開いた。
「あ、あの……もしかして、迷われましたか?」
その声は柔らかく、どこかゆったりとした響きを持っていた。おっとりした性格がそのままにじみ出ている。
「まぁ、そんなところだ。あんたは?」
「私、リアナといいます。この森の近くにある、エレナ村の薬師見習いです」
ユウマは肩の力を抜いた。敵意は感じないし、彼女の目は澄んでいて、どこまでもまっすぐだった。
「ユウマだ。旅の途中で、森に迷い込んだ。……いや、正確には、いろいろあってな」
「ユウマさん……お怪我はありませんか?」
リアナがすっと近づいてきた。小さな籠から布を取り出し、そっと彼の腕に触れる。
「少し、かすり傷がありますね。これ、薬草の湿布です。消毒作用がありますから」
「ああ、ありがとう。……ていうか、こんな森に一人で来て大丈夫なのか?」
「今日は薬草採取に……でも、本当は少し怖かったんです。だから、ユウマさんに会えて良かった」
ふわりと微笑むその顔に、ユウマは一瞬だけ心を奪われた。
(……癒やされるな)
それでも、まだ完全に信頼していいのかという疑念は捨てきれない。だが、彼女の気配には一点の濁りもなかった。
「エレナ村ってのは近いのか?」
「ええ、この川を南に下れば、すぐです。案内しますね」
そう言ってリアナが歩き出す。ユウマもそれに続いた。
——
川沿いを下る途中、彼女はこの村のこと、薬師としての修行のこと、そして母親を早くに亡くしたことなどを静かに語ってくれた。
「母はこの森のことを“聖霊の眠る地”って呼んでいました。いつか、この森の奥に眠る精霊と話してみたいなって、子供の頃から思ってて……」
「精霊、ね……」
光属性に関する伝承。その言葉にユウマの胸がざわついた。
(偶然か? それとも……この森には、俺が探すべき何かがあるのか)
彼女と話しているうちに、ユウマの警戒心は少しずつ解けていった。こんなふうに、誰かと並んで歩くのは久しぶりだった。
——やがて、森の端から田畑の広がる小さな集落が見えてくる。
「ここが、エレナ村です」
村は静かで、素朴で、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気を持っていた。だがその平和の裏には、確実に“異常”が迫っていることを、ユウマは直感していた。
「おい、リアナ! その男は誰だ!」
村の男たちが警戒心をあらわにして駆け寄ってくる。
「待ってください! この方は、森で私を助けてくれたんです!」
リアナが必死に取りなす姿に、ユウマは小さく息を吐いた。
(こっちの世界も、人間関係ってやつは面倒らしい)
それでも——彼の旅は、ここから本格的に始まるのだった。
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