大・スクープ!!

そして翌日。目覚まし時計の音が鳴り響く。私は目覚まし時計を止めようとあちこちに手を伸ばしている。するとお母さんが扉を何回かノックして、慌てて部屋に入ってくる。


「ほのか!! 起きてる!? 大変、瀬名くんが来てるの!!」


その言葉を聞いて、私はええ!!と目覚まし時計に負けない大声あげて、慌てて身支度をする。慌ててぶつけてしまった目覚まし時計は床に落ちて音は鳴り止んだ。ごめん、目覚まし時計。瀬名くんよね、大河くんなら分かるけど・・とお母さんもなんだかブツブツ言っていて落ち着かない。深呼吸して、忘れ物がないか確認して、急いで朝ご飯を飲み込む。


私は家を出たら、やっぱり湊くんがそこにいた。穏やかな笑顔を浮かべながら。

「おはよう、稲荷さん。大河の隣って聞いてたから。来てみたんだ。よかったら一緒に。」

「おおおおおはよう湊くん!!う、うん!私も、その、聞きたいことがあったから良かったよ、逆方向なのにごめんね!」


お母さんはそんな私を呆れた様子で見ていた。そして湊くんにぺこりと挨拶して家に入っていった。私は私が何を言ったか分からなかったけれど、湊くんが笑ってるからなんとか伝わったのかな。えっと、憧れの湊くんとお話する機会が増えて嬉しいけど、多すぎてなんだか私の頭がパンクしそうだよ!夢でも見ているんじゃないかな!!

「・・夢じゃないよ、稲荷さん。」

・・あ、あれ?やっぱり夢なんじゃ・・。そうでもないと私の心の声なんて読めないよね・・?

「だから、夢じゃないって、稲荷さん。・・そろそろ歩かないと僕達遅刻しちゃうよ? 一応、早めに出たつもりだったけど、思ったより時間がかかりそうだ。」

夢じゃないってことを伝えようと、湊くんが私の腕を少し引っ張ってみせた。やっぱり感覚があるから、夢じゃないんだ。けど!湊くんの腕の感覚がドキドキする。細いけれど弓道をしていることもあって、力は強い。って何を考えてるんだろう!私は。気を紛らわせるために昨日から聞きたかったことを湊くんに伝える。


「あ、あの!鈴原さんってどこにいるの? 文学部では見かけないけど。」

「うーん・・面白そうな場所にいるとしか言えない、かな。鈴原さんはスクープがあればそこに現れる感じだから、いつでも天文部ばかりにいるわけじゃないよ。」


その時、車が通った。けど、湊くんで頭がいっぱいな私はそんなことに気付かなかった。湊くんが私を引っ張って、車から遠ざけてくれたような気がしたけど、やっぱり気付かなかった。

「・・本当に大丈夫?稲荷さん。やっぱり熱でもあるんじゃ・・。」

「ううん、そ、そんなことないよ!湊くんは憧れだから、やっぱり、その、緊張しちゃうかな!」

「憧れ、か。稲荷さんが普段見ている僕は氷山の一角かもしれない。つまり本当の僕は違うかもしれないよ? そんなに緊張しなくてもいいのに。」


ああ、湊くんが空を見上げている。なんかしょうもないことを言ってしまったかな。湊くんはその後、ごめん、びっくりさせちゃって。と謝っていたけど、私もなんだか悪いことをしてしまった気持ちになった。どうしたらよかったんだろう。


—一方、さっきの車の中では・・

「大変ですわ!!!いなほちゃんと瀬名くんが大・接・近・!!ですわ!!」

「くるみお嬢様、落ち着いてください。くるみお嬢様がほのか様と大河様を応援なさっているのは存じておりますが・・・。」

「とにかく!これは大スクープなのですわ!!」


—大スクープ・・・?

桃色の三つ編みが揺れたような気がした。


校門の前まで着いて、私と湊くんがそれぞれの校舎に向かおうとしたとき。

「せーなーくーん・・・!! 彼女ができたのね??みんなのアイドル瀬名くん。なんで黙ってたんですか!」

桃色の三つ編み、頭にはハートの髪飾り、小柄。声は元気で可愛らしいのにどこか喋り方がきつく聞こえる。湊くんが小声でこの人が鈴原さんだよと教えてくれた。

この人と関わると色んな意味で面倒なんだ、と付け加えて。

「あ、あの・・私は、そ、その!!」

「あなたは、文学部1年稲荷ほのかちゃんね!! 瀬名くんの彼女なのね!?」

「だーかーらー、違いますって!」

やっぱり面倒だ。テレビで見る芸能人の大変さがなんとなく分かったような気がした。湊くんは前までストーカーで悩んでいたのに、プライベートに勝手につけ込むなんてひどい!と私が声を出そうとした時、湊くんが一歩前に出て、ニッコリとして言う。


「稲荷さんは、護衛なんです。ストーカーの件もあり僕からお願いしました。鈴を身につけていますし、運動神経も抜群なので。だから、お付き合いをしているとかではないです。稲荷さんはきっと好きな人がいます。僕も好きな人はいます。けど、思いはまだ告げていませんし、今はまだ僕の中で大切にしまい込んでおきたいんです。」

「ご、護衛だったのね。それは失礼したわ。稲荷ちゃんもごめんね。それじゃ。」

鈴原さんはうさぎのように走って天文部の校舎へ向かっていった。くるみちゃん後で覚えておきなさいよ、と言い残して。くるみ・・ちゃん?気のせいだよね。でも湊くんの話を聞いて、追求しないあたり意外と悪い人ではないのかな。というか、湊くんに好きな人がいるって・・!?

「ああ、そう言った方が相手にとっては情報が得られていいだろ? 本当かどうかは別だけどね。さっきの話だって、僕が即興で作った話だから、あまり深く考えないで。それじゃ、ありがとう。楽しかったよ。」

湊くんは天文部の校舎へ向かっていった。あれ、湊くんは私の心の中が読めるのかな・・?さっきの盛り上がりのせいで湊くんは自分を取り巻く女の子たちから質問攻めにあっていた。だけど、湊くんは軽くあしらっていた。


私も文学部の校舎に向かった。その様子を窓から、くるみちゃんと大河が見ていたことは知らなかったけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る