第7話

結局のところ最初のWAPCは下車人員まで撃破できたが、分隊再編成、弾薬再分派をやっている間に、大量の砲弾と後詰のWAPCにしっかり蹂躙された。FTCは機動防御も手馴れたもんだなとむしろ山永は感心するぐらいだ。山永も割と最初の方にRWSに狙い撃ちされ、バトラーの死亡判定の長音ピーが鳴らされて終わったのだった。

その後は状況終了までその場に待機だった。運良く統裁側に"死体"として回収してもらえれば屋根のある廠舎なりに戻れるが、残念ながら彼らは頑張って最前線に出すぎたせいでそれは叶わなかったのである。少なくとも中隊本隊が通り過ぎてくれなければ黒子である統裁部の回収車は"状況"を壊してしまうので前に出すぎるとなかなか回収されない。途中で雨が降ってきた時は、PMASエグゾスケルトン組は「くそが、最悪や……」と悪態つきながら雨衣を引っ張り出してそのカッパを羽織り、その後すぐに雨が上がって若手たちが「オイ達がなんしたっつーか!死ね!」とさらに口汚くお天道様を罵っていた。ちなみに山永は装甲服の中なので完全防水で、こういう時はラッキーやなと思っていた。というわけで彼は状況が終わるまで機体の中でしょれっとうつらうつらしている。

(はい終われ……てか帰って風呂入って酒飲みてぇ)

実戦さながらの訓練でも、死体役になってしまえば現実の兵士の本音はそんなものだった。

『ナガ』

「はい」

前衛分隊長だった宮田1曹から呼ばれる彼。呼ばれたら一瞬で覚醒する。何処でも眠れて呼ばれたら目が覚められるのは自衛官共通の特技かもしれない。

『ワイ高機のドライバーやったろ?状況終了したら速攻クルマ回しにいってくれ。全員武器点検終わったらさっさ戻ってバトラー返納準備すっぞ』

「了解っす」

さすが宮田1曹はサバける人だ。終わったあとの動きの腹案をすでに揉んでいるらしい。

子どもトレーラーは繋がんでいいすか?」

『よか』

「了解、だいか一人車長で欲しかっす」

『んー、そいやったら西ば連れてけ』

「りょ。……西?」

『直接傍受!』

「うむ、優秀でよろしい。状況終わったら武器・装具・エグゾ全部持ってクルマ取り行くぞ。空砲員数ダイジョブや?」

『1発も撃ってません!』

「……そうな、残念やったな。ばってんちゃん数えとけよ?弾倉からリンク垂らしたまんま走りよってどっか引っ掛けて落っちゃかした話もあるけんな?」

『りょ!』

空砲でも落とすととんでもなくめんどくさいのが自衛隊だ。最悪中隊総出で見つかるまで捜索など気が遠くなる。まあ落とした空砲が撃ち殻で、その数が少なければ、何故か先任が急にあったぞと胸ポケットから出てきたりするのだが。きっとその後、なくした当人が平謝りの上、火器陸曹が忘失届を出しているのだろう。実際、演習場における空薬莢の回収率は90%程度で許されるという話だ。……これが未使用空砲とか実包だとそういう訳にはいかなくなるが。

「状況終わったらバトラー返納に高機とキソーの洗車、武器整備からのAAR(アフターアクションレビュー)やろか」

やることがたんまりあるなと疲労に身を任せまたうつらうつらしながら状況終了を待つ山永であった。


FTCというのは静岡から遠い部隊にとっては何につけてもオオゴトだ。九州の部隊だと車でカーフェリーを利用しつつ静岡に行って演習やって帰ってこなければならない。大量の個人装備火器、部隊装備火器、弾薬、部隊装備品、需品物品、車両、キソー、個人物品などなどなど……。これだけの物と人が一度に動き、悌隊(コンボイ)を組んで移動をするので、一大ページェントとなりうる訳である。

山永はドライバーゆえ、移動間はほぼ休まらない。もちろん何度もサービスエリア等で休憩もするが、疲労がこびりついて取れないのが普通である。

「ダブル(WAPC)やっつけたらしかな?ナガ!」

帰りの車の中、山永の助手席の車長は郷曹長だった。車長がアタリだとドライバーは気が落ち着いていい。

「そんあとすぐ追っかけのダブル(WAPC)にやられましたけどね」

「よかよか!やったとは間違いなかろ?大したもんばい!」

苦笑いの彼にそれでも太鼓判の郷曹長。

「浦ん褒めとったぞ?判断の早かって」

「まじすか、なんかそれ嬉しかっすわ」

「来年PDDジブチ常駐派遣隊のあるやろ?ジブチ行くヤツ。ウチん小隊から門脇と浦とワイとあと何人か出すかっちゅう話ん出とる」

「初耳っす」

「ゆっとらんけんな」

朗らかに笑いながら郷曹長。

「中即で色々なろうたろ?そいば中隊に活かしてもらうけんな!」

「郷曹長に言われるなら」

派遣かァと彼は思った。中即ではなんだかんだ海外訓練は参加すれど実派遣は経験がなかった。向こうの中隊で人間関係で失敗したこともあり、行かないで良かったと思うところもあったが、これはこれで運命かと彼は思った。

「ワイならちゃん仕事ば果たすっさ!期待しとっぞ!」

高機の窓から吹き込む風を感じ、流れる高速道路脇の山々を眺めながら、郷曹長は心なしか嬉しそうに太鼓判を押すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る