7-2 予感、そして突然の共鳴


夕方、放課後の校舎は文化祭準備の熱気に満ちていた。


廊下を走る足音、装飾の色紙を切る音、どこかで流れる練習中の劇のセリフ。

リョウは教室の隅で装飾係の作業を終え、汗を拭いながら周囲を見渡した。


その視線の先——

ユイが誰かと話している姿が目に入る。


男子生徒だ。

大きな段ボールを抱えて、少し困ったように笑っている。


「ごめん、屋上に荷物運ぶの、手伝ってもらってもいい?」


ユイは一瞬迷ったようだったが、すぐに頷いた。


「うん、大丈夫」


(……屋上?)


リョウは、胸の中に不意にざらついたものを覚えた。


ただの荷物運び——そのはずだった。

なのに、なぜか“何かが起こる”予感が胸の奥でざわめいた。


気づけば、彼の足は自然とその後を追っていた。



屋上への階段を上がり、扉をそっと開けると、

ちょうど荷物を運び終えたユイと男子生徒の姿があった。


風に髪をなびかせ、夕日に照らされるユイの横顔。

その距離は思ったよりも、近く見えた。


(……違う)


リョウは、自分でも驚くほど冷静なまま、その光景を見ていた。

ただ、心臓の奥がじりじりと熱を帯びていた。


その時だった。


男子生徒が手を滑らせ、積まれていたダンボールが崩れる。


「危ない!」


ユイが反射的に身を引いた瞬間、リョウは駆け出していた。

身体が先に動いていた。


「ユイさん!」


叫ぶと同時に、彼女の肩を抱いて引き寄せた——


その瞬間だった。


視界が、揺れた。


ペンダントが激しく熱を持ち、リョウの胸で赤く光る。

ユイの胸元でも、同じ光が応じるように脈動した。


——ギュウゥゥン……


空気の密度が変わった。

時間が“溶ける”ように、周囲の音が吸い込まれていく。


(また……?)


リョウの意識が引き裂かれそうになる。

それは、確かな意志とは関係なく、“本能”のように発動した。


誰かを守る手。

その先にある、想いの共鳴。


リョウとユイのペンダントが共鳴し合う中、

世界が、音もなく“巻き戻る”。



どこか遠くで、吹奏楽のチューニング音が鳴った気がした。

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