第15話 vsビルソン
魔獣化はギエン国の将軍、ジェガンが得意とする戦闘技術だ。
知能以外のあらゆる能力を大幅に上昇させるそれは、戦闘という一点に限って言うならトップクラスの性能をもつスキルと言える。
それを水薬によって発現させることができるのは知らなかった。
妄想が過ぎるかもしれないが、あるいはビルソン一派はギエン国とつながりがあるのだろうか。
もしそうなら、ギエン国とは冷戦中の邪馬都の軍師である俺からすれば、こいつを逃がすわけにはいかない。
「グルル……まずは……カレナを殺す。そのあと腰抜け王を八つ裂きにして……ついでに邪馬都の使者も殺す」
俺オマケ扱い……
「それからゆっくりカレナの体を楽しむとしよう。オレは死体でア〇ルを〇すのが大好きなんだァ」
「変わった趣味だね……」
ワーウルフと化したビルソンは前足を床について前傾姿勢の構えをとる。
「どおぉアッ!」
大きな爪を振りかぶり、カレナに向かって薙ぎ払う。
カレナは小剣を爪の間にカッチリ差し込み、体をひねって宙に逃れた。
「ヌウッ!?」
カレナはそのままの勢いでビルソンの頭を飛び越して背中に回り、背後から小剣で両脚を斬りつける。
しかし。
――ゾリリッ……
斬撃はヒットするも、その皮膚の薄皮一枚を裂いただけに留まった。
「……!」
「グハハハハッ! 無駄だァ! オレのチ〇ポより短い剣で何ができる!」
魔獣化は膂力の上昇だけではない。体も鋼のように硬化する。
オーラ術もマトモに付与できないあの小剣ではダメージを与えることはできない。
「おヌシも加勢できぬのか!?」
ハクネ国王が俺をけしかける。
傍からみたらカレナが追い詰められているように見えるのだろうか。
「もう加勢してます」
「……?」
実はヤツを逃がさないために出口や窓に罠となる結界を張っている。
それで十分だ。
ビルソンは爪を縦に横にと振るう。
動きは乱雑だが、魔獣化のおかげでシンプルに素早く、威力も高い。
議事堂の頑丈な壁や柱を粉砕しながらもカレナを追う。
しかし、元気よく腕を振っていたのも十数秒程度。
猛攻がカレナにかすりもしないことに苛立ちを覚えたようだ。
「キサマ~ッ……いつまで逃げ回っているつもりだァ」
「ふふ。斬っても全然効かないから、援軍待ち」
「……!」
ビルソンの計らいで警備は分散しているとはいえ、これだけ派手に暴れていれば異常を察知した兵が議事堂に来る。
そうなれば詰みだ。ヤツは一刻も早くここを脱出したいはず。
とはいえ、魔獣化ビルソンを倒すとなると兵士たちの犠牲も少なからず出るだろう。
カレナの狙いは敵を焦らせることだ。カレナは援軍が来る前にビルソンを始末……いや、捕らえるつもりだ。
「ならばまず雑魚を殺してやる!」
おっと。こっちに向かって来たか。
狙いはハクネ王。ヤツからしたら現国王さえ殺せればいいのだ。強敵を相手にする必要はない。
ただし……それが罠なんだが。
ビルソンの爪は、情けなく叫び声を上げるハクネ王の眼前でピタリと止まった。
「な、なにィ……これは……!」
「思業・
いつの間にかビルソンの肩に乗っているのは、俺が召喚した式神。
荒苦根は強力な捕縛結界を張る、大蜘蛛の式神だ。
人の頭くらいの大きさだが、こいつにかかれば並みいるパワー自慢も水を殴るがごとき無力さを味わうことになる。
「立ち止まってる陰陽士には近づいちゃダメってね」
何故かカレナが自慢げだが、その通り。
「オオオォォォッ!」
ビルソンは喚いて藻掻くが、全くもって逆効果。
蜘蛛の糸がますます絡まりつき身動きが取れなくなるだけだ。
「よっと」
そこにカレナが脚でビルソンの頭をはさみこむ。
同時にカレナとビルソンの両名が白いオーラに包まれた。
重量操作のオーラ術……ビルソンを軽く、そしてカレナ自身は重く。
オーラで補助されたカレナは空中で後転するようにして、ビルソンを軽々と投げ飛ばした。
――ゴンッ!
そして石の柱に頭を激突させたビルソンは白目むいて倒れ込んだ。
これにて戦闘終了。
「お疲れ様」
と、カレナに声をかけるが、反応はない。
カレナは無表情で領主たちの遺体を見ては目を逸らす……という謎の動きを繰り返していた。
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