【短編】あなたは私と夢で逢いましたか?
ずんだらもち子
あなたは私と夢で逢いましたか?
「ぐおおおおおああああああぁぁぁぁぁぁぁ………………!」
魔王の断末魔が響き渡り、城を、大地を揺るがした。
淡い紫色の体が、崩れ、塵となり、消えて行く。
息を切らせた勇者は額の汗を角ばった手の甲で拭う。
「姫様!」
魔王が消えた向こう側には、縄で縛られ、力なく座り込んでいた囚われの姫がいた。
勇者が駆け寄る。
その呼びかけに、虚ろだった姫の瞳に光が戻る。
「勇者……さま……?」
「姫様、長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。今縄を解きます」
勇者は縄の結び目を気にせず、適当に掴むと引きちぎった。
「このままでは城が崩れる……しっかり掴まっていてください、姫様っ!」
三階ほどの高さはある天井の一部がすでに崩れていて、薄闇の中一粒の淡い星の光が見えた。
勇者は姫を抱きかかえると、その場で少しだけ膝を曲げたのち、一気に跳躍した。
黴臭い、じめりとした空間から澄んだ空気の世界へ戻り、姫は肺が痛く感じたのか、くはっと息を漏らした。
「見てください、ほら!」
屋根の上に立ち、姫を降ろすと、背後を勇者が振り返る。
朝陽が今まさに昇ろうとしていた。
眩しい陽光を受けて、その輪郭を輝かせる勇者に、姫は上目遣いで問いかける。
「あの……勇者様?」
「はい? なんでしょうか」
「そ、その腕は……どう、されたのですか?」
屋根のどこかで、小石のような瓦礫が転がる音がした。
勇者の右腕は青色の肌をしていて、左腕は竜を蜂起させる鱗で覆われていた。
「その脚も、」
山肌を駆ける草食動物たちの如く、膝の関節が人のそれとは逆の脚。
ブーツも履いておらず、猛禽類の如く細く鋭い爪が伸びるのが見える。
「首や体も…………一体、どうされたのですか?」
岩で作られた人形のように灰色をした固い体と太い首。
「全ては姫様をお救いするためです。かつての私のままでは……人間では、魔王を倒すことなど到底かなわなかったのです。一人の人間が魔族に対抗するために、強い肉体を手に入れるのは必然でした」
「……。そのお顔は……」
左の眼球は、魔族の物をはめ込んだようで、本来白色であるはずの場所は薄い紫色をしており、瞳は血の様に赤黒い。周囲に浸食していっているのか、血管が幾筋も放射状に浮き上がり、不規則に脈打つのが見えた。
その配色は、長く魔王や魔族に囚われていた姫には酷く見覚えのあるものだった。
「やつらの魔法に対抗するためです」
「お話のされ方だって、昔はもっと乱暴で、子どもっぽくて……でも、情熱がこもっていましたわ。今はもう……声だけ……」
「……昔のことは、もう良いではないですか。私は貴方を救うためにここに来たのです。さぁ、帰りましょう」
勇者は背を向け、降りられそうな場所を探る様に歩き始めた。
「そう、ですわね……」
そう答えても、足が前に出ない。
「
姫は、静かに涙を流し、その背中に問いかける。
「それでも……。あなたは……本当にあなたは…………私が、夢の中でお逢いしていた、勇者様なのですか?」
【短編】あなたは私と夢で逢いましたか? ずんだらもち子 @zundaramochi777
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