第4章
…和谷を見つけてから、僕は、何度も歌詞を作り直しては、ただひたすらに、この思いの強さを、歌詞に乗せていた。和谷が居ようが居まいが、関係ない。
「…数年前、僕の大切な人が、死にました」
最後の曲に入る前、僕は、観客に向けて、そう言った。
「僕は、その子と過ごす日々の中で、壊されていきました。世界が、どうも綺麗に見えた。でも、それと同時に、その子がいた社会の、薄汚さに、気が付いた。殺された、その子は、殺されたんです」
言葉を発する度に、涙を堪える。
「この曲は、どうしても、僕が歌いたかった。だから、歌わせてくれと頼んだら、彼らは了承してくれました」
あの後、僕は二人に、「この曲は僕に歌わせくれ」と頼んだ。二人はきょとんとして、「元々そういう感じじゃなかったんか?」と、言った。この曲への思いは、誰よりも強い。だから、どうしても歌いたかった。二人には感謝してもしきれない。
「…どうか、聴いてください」
僕は、一度深呼吸をして、優しく、それでも強く、君に届くように、言った。
「何者」
「変わりようのない世界に 僕らは手繰り寄せられていた 作り偽られた大人に 変わり果ててしまっていた」
(…どうして、いなくなったんだろうな…)
「どうやら 言葉は 詰まるだけ詰まり続けて あなたへの思いを突きつけている」
(サビに入る…泣きそうやなぁ…聞こえてるか、妃花)
「会いたいと願って 会えないと悟って それでも思いは つっかえたままでいる」
歌えば歌うほど、自分の気持ちに気が付いて、辛いと思ってしまう。でも、特別な存在だから、何者でもない僕が、君に言われた言葉。その意味が、今、この歌詞に乗せて、わかる。
「嗚呼 戻って来いと願っても あなたはただ 微笑むだけ
嗚呼 行くなよと叫んでも あなたはただ 手を振るだけ
壊れていく 僕を壊していく あなたなんか 何者でもなかった」
全て歌い終わり、観客からは、優しくも、溢れんばかりの大喝采だった。
そこには、和谷もいるようだった。
「「「ありがとうございました」」」
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