episode 1-2 ロボットの名前
今日は月命日のお墓参りだった。落葉樹の枝のすきまに飛翔くんを見つけた私は、人を浮かばせられるアプリの入った金属製のカードを手にひらひらと発電所の足元へ。黄色い枯れ葉を踏む音は、この私の気配を不機嫌な彼に伝えているだろうか。ふと小さな赤い花が落ちているのを見つけ、今月も誰かからお墓に供えられていた花に似ていると思った。
ちなみにナイーブアプリは非常にめずらしい上に複製できず、実物を手にできた人間など極めてまれである。ならばねらわれやすいはずだが、回数ばかり多くても彼のアプリほど危険がない私はカードを見られても平気だった。まあ多くの人はこのアプリの存在を知らないし、
ただ、十六歳の男女が二人きりで森の中なんて何かあったら大変と考えなくもないけれど、今まで一度もそのような気配すらなかった。彼に意気地がないか私に興味がないのだろう、そうに違いない。
「飛翔くん、何やってるの?」
ばかにしてくる同級生に見立てて空を蹴ったばかりなのは知ってる。その蒼空も穏やかな灰色に曇ってきた。冷たい水に囲まれたのっぺらぼうのコンクリート、一段ごとに明るい
ああ、昨日けんかしたままだった。
「――私は、これを使えるコンピューターを探そうって、飛翔くんと……」
「本気で探したいなら、こんなとこ来る前に
大柄でトラックを思わせる目つきがあーあと立ち上がり、箱型の建物上を白い息とともに迫ってくる。
彼が口にした「朱鞠内」とは例のお父さんが造ったロボットのことで、お母さんの出身地にほど近い北海道の湖から名前をいただいた。人工の湖である朱鞠内湖には私を表す〝岬〟がいくつもあるため、私のロボットを「朱鞠内」と名づけた――エンジニアであるお父さんが。私はそんな名前かわいげが足りないと最初は納得いかなかったが、今はそれなりにかわいく感じるから不思議だ。
ロボットの名前より今は飛翔くんである。
「ねえ、何で許してもらってないってわかったの? だいたい私がどうしてロボットの許可なんか得なきゃいけないのよ」
アプリを鞄にしまった私がやっと屋上に立って訊ねると、後ろに下がった彼は「そんなの、初海の顔見ればわかる。全然いきいきとしてないから」とあきれたように言った。
「ふうん、ペンギンに猫の顔が読めるとはね」
「それに初海が朱鞠内の許可を必要とする理由は、初海が一番わかってるだろ」
飛翔くんは自分自身を「猫」と呼んだ私の嫌みを無視し、二つ目の問いの答えまで出してしまう。
「そんなの、ちょっと気分が悪いだけじゃん」
「いいや、もう気分だけでも不安になっちまうんだね。あんなおもちゃに精神を乱されてるんだ。それとも許可なしにコンピューター探せる?」
うわあ、何というか否定できない。
しかも飛翔くんはさっきまで寝転んでいた場所にどっしりと立ち、私が苦手だと言ってもときどき見せる蒼い視線でにらんできた。彼の瞳――虹彩は私と同じ
何だか、そういう視線を浴びたらよけい寒くなってきた。
「じゃ……あ、私が許可をとるか無視して強行するかして探しにいくなら、一緒に来てくれる?」
私は朱鞠内との向き合い方を決めずに訊き返した。コンピューターを探すのは、例の飛翔くんを飛ばせてあげるアプリと彼が憎む人を消すアプリを使うため。実はこれらの白銀色のカードは力を発揮するのに専用のコンピューターが必要だった。広い世界にコンピューターはアプリ以上に限られた数しかないと知られている。
ただ、ナイーブアプリの近くにコンピューターもひそんでいるらしいと、アプリを見つけたときに彼から聞かされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます