第75話 覆らない事実
SIDE カデン
「…………」
「ふん、平民が二回戦まで残るなんてね」
二回戦目の戦いが回ってきたカデン。
相手は槍使いであり、一回戦目のイナカナと同じく平民であるカデンを見下している。
いけ好かないイケメンという外見がその態度を更に苛立たせる……が、カデンは特に気にしていなかった。
(槍使いか……それなら)
「ちっ、おい貴様、私の話を聞いているのか!!」
「? あ、あぁ。ごめんなさい。集中してて聞いてませんでした」
「ーーーーっっ!!!! 平民ごときが……五体満足で変えられると思わないことだ」
殺しはご法度ではあるが、腕や足が斬り飛ばされることは特に珍しいことではない。
なんなら、未来の騎士たちを品定めしている騎士団の人間たちからすれば、それぐらいんの経験は大会などの安全な場所で先に経験しておいてほしいとすら思っていた。
「両者、悔いの残らないように…………それでは、始め!!!!!!!!!!」
「ッッ!!!!!!!」
開始の合図と共に先に動いたのは……カデン。
観客たちは一回戦目とまた同じ光景を見れるのかと期待が高まる。
いけ好かないイケメンの槍男は、当然ながらカデンがフィジカルをメインに対戦相手を倒したことを知らない。
この戦いでも通用することは間違いない……だが、ロングソードと槍ではリーチが違う。
下手に突っ込めば薙ぎ払い、もしくは突きの餌食となる。
(穴だらけにしてあげようじゃないか!!!!)
当然のようにリーチの差を活かし、カデンのロングソードが届く前に突き刺そうとする。
(ッ、今)
しかし、カデンは寸でのところで回避。
そして……なんと引き戻される前に槍を掴んだ。
「なっ!!??」
「ふんっ!!!!!!!!!!」
瞬時に魔力を全身に纏い、そのままいけ好かない槍使いをその場から引っこ抜いた。
彼も慌てて全身に魔力を纏う。
その魔力量は貴族らしく、その魔力だけで簡易的な鎧となる。
だが、二人とも身体強化を果たしたとなれば……分があるのは間違いなくカデンであった。
「シッッッ!!!!!」
「ごばっっっ!!!!!?????」
引き抜かれて宙を泳ぐ体に、カデンは軽く跳んで身を捻り、左足でいけ好かない槍使いの腹に蹴りを叩き込んだ。
宙に浮いていたこともあり、踏ん張ることは出来ずにリングの外へ飛ばされ……壁に激突。
「ぎっ!!!???」
腹に蹴りを食らったことで体がくの字に飛んだこともあり、壁には腰がメインで衝突。
基本的にどこに当たっても痛いことに変わりはないが、腰を強打すると即座に立てなくなる。
「こはっ!!?? な、なんだ、今のは」
「一……二……三」
「なっ!! ま、待てっ!!!!!!」
待つわけがない。
そんな事はいけ好かないイケメンも知っているが、それでも言葉が零れてしまった。
彼の本能は、それほど自身が追い込まれていることを自覚していた。
腰の強打に加え、逆に槍で突き刺されたような蹴りを腹に食らい、その衝撃で吐血。
カデンが放った蹴りは確実に槍使いの内臓を損傷させていた。
(私は、私は、まだ戦えるんだ!!!!)
一応、動くことには動く。
それでも直ぐに立ち上がることは出来ない。
そして、彼は手元にあるはずの相棒がないことに気付く。
(なっ!!! あ、あんなところに!!??)
蹴りの衝撃で槍を手放してしまっていたいけ好かないイケメン学生。
槍を持って上がらなければ、素手で戦うことになる。
身体能力あるため、そこら辺のチンピラ相手であれば問題ないが、武器を持つ相手であればそうもいかない。
「五……六……七」
(は、速く!! 速く、移動しなければ!!!!)
体は変わらず魔力を纏う事で強化している。
しかし、身体強化をしたところで、受けたダメージが抜けはしない。
彼の脚は小鹿のように震えながら移動するも、その速さ……移動幅では、拾ってリングに戻るのに時間が足りない。
「……八」
(ま、不味い!!! い、一旦、リングに!!!!)
後のことなど考えていられる余裕はなく、まずは試合を続ける為にリングへ戻ることだけに集中する。
何が何でも戻ろうと、全身に力を込めた。
「っ!? ぶがっ!!!」
だが、まだ歩けてもまともに走れない状態だったこともあり、全力で戻ろうとした瞬間、綺麗にずっこけてしまった。
「……九……十。そこまで!!! 勝者、カデン!!!!!!!!!」
「「「「「「「「「「ーーーーーーーッッ!!!!!」」」」」」」」」」
まさかの一撃。
一撃で試合を終わらせてしまった。
その光景に、結果に観客たちは更に熱狂。
「ま、待て!! 私は、私は、まだ戦える!!!!!」
いけ好かないイケメンは、自分はまだ戦えると力強く吠える。
闘志が萎えていないというのは良いことだが、それでも既に結果は出てしまった。
「十カウント以内にリングへ戻ることが出来なかった。それは敗北の条件だ」
「~~~~~っっっ!!!!」
「君はリングに戻れずに負けた。どれだけ叫ぼうと、その事実が覆ることはない」
「…………」
審判はただ淡々と事実を口にした。
未熟な騎士候補の気持ちに寄り添う事はなく、逆に現実を認めない心を叱ることもなく……ただ冷静に事実を伝えるのみ。
その対応が、彼に本当に敗北してしまったのだと、変えようのない現実を理解させ、心を砕くこととなった。
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