デザインブレイクナックル

なうなす

第1話

 この世界には二つの怪物がいる。

 ブレイカー英雄デザイナーである。


 最近現れた彼等は瞬く間に世間に浸透した。


 デザイナーは破壊や民衆を苦しめる様な悪行を行い、ブレイカーはそれを退治していった。


「”トーメントブレイカー”が!またやってくれました〜!」


 肩に担ぐ男──”ヒューマンデザイナー”を彼は倒したのだ。

 ニュースの一面にヒーローとして紹介されるブレイカー達は、ただひたすらにかっこよかった。


 

 僕は言峰ことみねライ。今は学校のトイレにいる。

 

「亀さ〜ん、顔出さないと授業間に合わないでちゅよ〜?」


 僕をイジメている先輩のヤキは、丸まっている僕を、足の先でつついている。


 恐る恐る頭を覆う手を取った瞬間…


 ゴッ!


 首の付け根を強く蹴られ、壁まで転がる。僕が涙目で必死に抗議しても、聞きやしない。


「ごめんごめんw強すぎたなw」


 手を合わせて平謝りするヤキ。


 ヤキが僕の前髪を掴まれ、無理やり顔を持ち上げる。


「これは明らかに俺の勝ちだな。…もう蹴られたくないだろ?…分かるだろ。」


 手を輪っかにして、僕に突きつける。


「負けたんだしさ。金、出してくれる?」


 震える手で、ヤキに渡す様に用意した財布を渡す。


 その財布の中身をヤキは漁っている。

 今の内に逃げないと。


「待てよ。」


 今までもこうやって金も何もかも奪われてきた。こんな財布を用意するくらい、僕はヤキが怖い。


「金…足りねぇよな。」


 その一言に背筋が刺されるような感覚に襲われ、固まってしまう。

 僕は刺激しないようにと動かずにいた。


 ズガーン!


 顔を鏡に叩きつけられる。


「嘘ついちゃいけねぇって、習わなかったのか!」


 そのまま地面に叩きつけられて殴られる。小賢しいことをしたと後悔するも、別に今が変わるわけではない。


 頭の中には、こいつをボコボコにするヒーローがいるのだが、こんな場所にはブレイカーは来ない。

 俺に力があれば…こんなことには。


「君は、ブレイカーになりたいのかい?」


 突然、目の前に真っ白なぬいぐるみみたいなやつが現れた。

 周囲は止まっていて、体も動かない。


「どっちだい?今君はブレイカーになりたいのか、なりたくないのか。それを聞いているだけさ。」


 過去に見たニュースで紹介されるブレイカー達が、脳裏を駆け巡る。

 僕だってブレイカーになりたかった。これをこのマシュマロみたいなのは叶えるという。

 正直嘘だと思った。でも、嘘だって縋りたくなる時もあるものだ。

 喉の奥の奥、隠していた本音を口にする。


「僕は、英雄ブレイカーになりたい!」


 その瞬間、ヤキは吹き飛んだ。


「…何しやがるてめぇ!」


 ヤキが殴ってきたが、遅すぎて話にならない。

 体の奥底にある力を拳に乗せて、全力でヤキを殴った。

 ヤキは壁まで吹き飛んでいった。


「対等だったはずだろ?なにが起きた。」


 壁に寄りかかるヤキは語りだす。


「…俺は暴力で人から奪う。勿論奪われるさ。負ければな。勝負ってのは勝者がいて、敗者は奪われる。これが常識なはずだ。」


 ズンと肩にのしかかる様な感覚…ヤキからどす黒いオーラを感じる。


「突然覚醒とでも?許されるかよ!負けたら負けたままでいろよ!」


 ヤキは拳を壁に振りかざした。バキバキとヒビが入っていく。


「覚醒したね。」


 マシュマロみたいなのが、僕に語りかける。


「あれがデザインの覚醒だ。」


 そういえば、ブレイカーには能力がある筈だ。たしか拳に込める信念に、力が宿る…と聞いている。


「君は”デザインブレイカー”。悪人デザイナーを倒す拳。」


「さぁ拳に込めるんだ。今の気持ちを、悪人を倒さんとする意思を!」


 マシュマロみたいなののセリフに合わせて拳を引き、強く握って覚悟を決める。


「これが勝負!勝負!勝負!勝ちがあれば、負けもする!勝負…勝負ゥ!」


 ヤキが驚異的な加速で拳を僕に振りかざす。


 僕は長年動かなかった自分への恨みと、ヤキへの憎悪。

 そして、ヒーローとしての信念を乗せる。


「デザインブレイカー!!!」


 ヤキは壁へと吹き飛んでいき、白目を剥いて倒れている。


「君は成し遂げたんだ。つまり今から正真正銘”デザインブレイカー”になったんだ。」


 マシュマロみたいなのは興奮した口調でそう言った。


「そういえば、その……。」


 名前を聞きたいが、どう聞けばいいか分からずに失速した。

 

「僕は妖精さ。君の意思を実現する為に現れたんだ!」


「妖精?」


「妖精は妖精だよ。よろしくね、ゲンポー!」


「……言峰ことみねだよ。」

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