第7話 美女と野獣と勇者

 石造りの階段を上りきると、レオンとゴーンの目の前に広がったのは、意外にも温かな空間だった。


 城の一角にある食堂は、天井の高い開放的な部屋で、大きな窓からは柔らかな光が差し込み、壁際の燭台の炎がゆらゆらと揺れている。重々しい空気の漂う城内では異質なほど、落ち着いた雰囲気が流れていた。


 その中央──長く豪奢なテーブルに一人、椅子にもたれてワイングラスを傾けていたのは、妖艶な雰囲気をまとった一人の女性だった。


 豊かな黒髪に、鋭さと優美さを兼ねた瞳。しなやかな手の動きさえ絵になるような、美しくも近寄りがたい存在感。明らかに“ただの魔物”ではないことは、姿を見るだけでわかる。


 彼女はレオンたちに気づくと、ゆったりとグラスを置き、甘く響き渡るような声で口を開いた。


「あら? ミノタウロスと……人間? ふふ、なんだか珍しい組み合わせね。何か訳ありみたいだけど?」


 その視線に、ゴーンの眉がぴくりと動いた。


「なんだお前、牛でも見るような目しやがって。」


 低くうなるような声で不快感をあらわにするゴーン。気のいい彼にしては珍しいほど、表情に棘があった。


 レオンは思わず吹き出しそうになるのをぐっと堪え、肩を小さく震わせながら慌てて制止した。


「こ、こほん……ゴーン、おそらくそれは気のせいだ。な? 落ち着いてくれ。」


 ゴーンはふんっと鼻を鳴らしつつも、それ以上は言わず黙り込んだ。


 レオンは咳払いをひとつして気を取り直し、女性へと向き直る。


「それより、君は何者なんだ? こんな場所でくつろいでいるとは……只者ではないだろう?」


 女性はわざとらしく肩をすくめると、くすくすと笑いながら手招きした。


「私はリリス。ここではそこそこ顔が利くの。まあ……いわゆる“四天王”の一人、ってやつね。」


 名乗ると同時に、その声色はさらに柔らかさを増し、どこか誘うような響きを帯びた。


「立ち話もなんだし……せっかく会えたのだから、あなたたちもこちらにいらっしゃいな。お茶くらいは出してあげるわよ?」


 その言葉に、レオンは一瞬戸惑いながらも、警戒心を完全には捨てずに一歩踏み出した。


「リリス、か……なるほど、また一人“四天王”に出会えたわけか。」


 ゴーンはまだ少し渋い顔をしながらも、レオンの隣に立っていた。


 こうして、二人目の四天王との邂逅は、少々奇妙で気まずく、そしてどこか不思議な期待を抱かせながら、始まりを告げた。

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