第二十話 水着を

 その日俺は出来上がったエアコン木箱を持って商業ギルドを訪れていた。初回納品はラウドスネークの魔石を使用した大型の物が五十台、イートンの魔石を使用した小型の物も同じく五十台だ。すでに指定されたギルドの倉庫に運び入れてある。アイテムボックスから取り出しただけだが。


 担当はシグブリットだ。他に契約部門の担当者と経理部門の担当者も同席していた。ちなみにこの商業ギルドはもちろんのこと、冒険者ギルドと生活ギルドにもエアコン木箱は設置済みである。お陰でフロアは暑さから逃れたい人でごった返していた。


「では大型のエアコン木箱は金貨十枚(日本円で百万円)、小型の物は金貨一枚(日本円で十万円)。それぞれ魔力供給用の魔石にスイッチと排水用のホース、設置にかかる費用等は別ということでよろしいですね?」

「構わない」


 これらは俺がエアコン木箱を商業ギルドに卸す額なので、客はさらにギルドが利益を上乗せした価格で購入することになる。


「あまり暴利を貪るなよ」

「商業ギルドの規約で卸値に対し五割上乗せした額が販売価格となっております。ご安心下さい」

「分かった」


「契約締結後は生産者のレン・イチジョウ様も個人的な販売は控えて頂かなくてはなりません」

「そうなのか?」


「ギルドより安く販売されますと値崩れを起こしかねませんので」

「確かに言う通りだな。あとくれぐれも分解して製法を暴きだそうとしたら二度と動かなくなるとの注意書きを忘れないでくれよ」


 作成時に木箱に彫ってもよかったが、面倒なので商業ギルドにやらせることにした。


「レン・イチジョウ様、次の納品はいつ頃、どのくらいの数が可能ですか?」

「うん? 魔石さえあれば同じ数なら三日もあれば納品出来るが?」


「ではお願い致します」

「いやいや、魔石がないと無理だぞ」


「今回本体に使用されているのはラウドスネークとイートンの魔石ですよね? イートンの方はすぐにでも商業ギルドで手配致します。ただラウドスネークの魔石については冒険者ギルドに依頼しなければなりませんので少々お時間がかかるかと」


 前回はラウドスネークがポチに追い立てられていたので大量に討伐出来たが、普段はキパラ大森林の奥に行かないと遭遇するのも難しいらしい。ただし手持ちにはまだ余裕がある。


「ならそっちは俺の方で何とかしよう」

「本当ですか!?」


「ああ。しかし初回納品したその日に増産要請とは、まさかすでに買い手が決まっているのか?」

「今回の分は王家が全て買い取ることになっております」

「王家が!?」


「王城のフロアやロビー、執務室、王族の方々の個室などに設置されるとのことです」

「なるほどね。なら王族価格でもよかったかな」


「後々値段を下げると王家から恨まれますのでお止めになられた方がよろしいかと。加えて価格を釣り上げても支払われるのは我々の納めた税からですから」

「あー、それは不本意だな。だったらさっきの価格のままでいいよ」


 スイッチやホースの制作と設置工事はいくつかの工房が名乗りを上げているそうだ。今はまだ数もそれほどないが、一般家庭に普及するようになれば夏場はてんてこ舞いすることだろう。そっちの手配も商業ギルドに丸投げした。


 ちなみにエアコンと言いながら暖房機能は搭載していない。最初は考えたのだが暖房用の魔石にも温度調節機能が必要で、これと冷房用の魔石が干渉してしまい思い通りの動作をしなかったのである。冷暖共用の魔法は系統が異なるため作るのが困難で諦めた。


 ま、寒くなる前に暖房用木箱も作ればいいだろう。そっちは本体の魔石は一つで済むしな。乾燥対策はどうするのかって? 湿らせた布か何かを置いておけばいいだろう。


 そもそも暖房用の方はそれほど売れるとは思っていないのだ。各家庭には元々暖房設備があるようだし、わざわざ暖房用木箱など買う必要がないと思われるからである。


 さて、ひとまずエアコン木箱の件は増産を進めるとして、もう一つ俺にはやらなければならないことがある。


「旦那様、何を掘られているのですか?」


 ギルドから戻って第二拠点で大きな穴を掘っていると、コレッタがやってきて不思議そうに尋ねた。額の汗を拭ってくれるのはありがたい。それにしても暑い。


「コレッタは泳げるのか?」

「泳げ……えっと、水の中ってことですよね?」

「うん」

「やったことがありません」


 そう、俺が造っているのはプールだ。夏と言えば海なのだろうが、残念ながらこの世界の海には魔物が棲んでいる。だからとても海水浴を楽しめるような状況ではない。となればもう造るしかないだろ、プール。


 それと大事なのが水着。水着だよ。俺がこの世界に来てから裸を見た女性は二人。ジェリカとカタリーナだが、二人とも下着は着けていなかった。それがこの世界のスタンダードならビキニでも問題ないはずだ。


 ちっぱいにはスク水じゃないかって? まあ確かにそういう意見もあるだろう。しかし俺は断然ビキニ派なのだよ。パレオなんか巻いてたら最高だね。


 ということで早速コレッタたちを呼んで、俺がデッサンした水着の形とデザインを見せてみる。もちろんワンピースタイプも候補には入れてあるぞ。


「旦那様、これが水着というものなんですか?」

「うん。水に入る時に着るやつね」


「うーん、何だか裸よりエッチな気がします」

「お館様はこういった物がお好きなのですか?」

「水に入るなら裸の方が……」


「いやいや、何言ってんのさ。俺も一緒に入るんだから裸はダメでしょ」


「えっ!?」

「お館様も一緒に!?」

「そんな、恥ずかしいです」

「私はこれがいいです」


 コレッタたちが顔を赤らめている中、ルラがワンピースタイプを指さす。


「ど、どうしてルラはそれが?」

「私はお胸が大きくないので、こっちのタイプですと余計に見窄らしく見えるような気がして……」

「そ、そうか」


「旦那様はどんなのを着てほしいのですか?」

「そうだな。このビキニにパレオという布を巻いてくれると可愛いんじゃないかと思うけど」


「ならそれにします」

「「「私も!」」」


 あれ、ルラまでビキニタイプに変更となった。可愛いと言ったからかな。悪いことをしたような気がするが、本人がそれでいいなら俺はとやかく言うつもりはない。


 形だがルルを除くお胸が控えめな三人にはフリルがついた物を勧めた。これなら大きさを気にしなくて済むし、腕までフリルがあるのは本当に可愛いと思う。下は紐のようなリボンをあしらってみた。ルルにはちょっと攻めた布地の少ないタイプだ。もちろん四人ともパレオありとした。


 色柄については白やピンク、レモンイエロー、一応黒も候補に入れたが、例によって俺の好みを聞かれたので、黒以外がいいと言うとそれぞれ明るい色を選んでいた。そのうち花柄とかそういうのを足していけばいいだろう。


 希望が出揃ったところで、ポリエステルやポリウレタンなどをイメージして魔法で水着を作る。サイズは自動調整、魔法って本当に便利だよ。出来たらいきなり試着大会が始まったので、それはそれは至福の時間だった。


 ちなみにエルンストを始めとする他の面々は水に入るのに抵抗があるということで、水着制作は不要だそうだ。風呂には入るのだから、きっと俺に気を利かしてくれたのだろう。


 さあ、プール開きだ。



——あとがき——

次話は最近あまり見なくなった(気がする)水着回です。

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