第24話『真夜の涙と秘密の約束』



病院からの帰り道、玲奈は母親と一緒に残り、俺はひとりで最寄り駅へと歩いていた。


スマホが震えた。

画面に表示されたのは「真夜」の名前。


『今、時間ある?少しだけ、話したいことがあるの』


そのメッセージに、心臓が微かに跳ねた。

玲奈との時間の余韻を胸に残したまま、俺は返信を打った。


『いいよ。どこで会おうか?』


返信はすぐに来た。


『秘密基地、覚えてる?』


――秘密基地。


それは、小学生の頃、近所の森の中に作った、俺と真夜と玲奈の“隠れ場所”。

廃材の板で作った簡易な小屋。今も残っているかはわからなかったが、場所は忘れていない。


俺はその足で、夜道を抜けて、あの森へ向かった。


* * *


草が少し伸びていて、懐かしい小屋は崩れかけていた。

でも、そこに彼女はいた。


星明かりと月の光を背に、真夜がベンチに座っている。


「……来てくれて、ありがとう」


「久しぶりだな、ここ。まだ残ってたんだ」


「うん。いつか壊れちゃうかもって思ってたけど……悠斗との思い出が、ここにあるから」


真夜の表情は、普段の勝気なそれとは違い、どこか寂しげだった。


「玲奈と……病院に行ってたんでしょ?」


「……ああ。お父さんのことで」


「やっぱり、優しいね。昔から変わらない」


少しの沈黙が流れた。


真夜が口を開いたのは、そのあとだった。


「……ねえ、悠斗。もしも、私が泣いたら、引く?」


「引くわけないだろ」


「……そう。なら、ちょっとだけ、泣いていい?」


その言葉と同時に、真夜の瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。


「玲奈のことも……陽菜のことも、ちゃんと見てるの。二人とも、まっすぐで、自分の気持ちをちゃんと伝えてる。

……でも、私だけ、ずっと後ろにいた気がしてた。誰にも弱音を見せないって、決めてたのに」


俺は何も言わず、隣に座った。

彼女の肩が震えていた。


「ねえ、悠斗。私ね、ずっと言えなかったの。……あんたのこと、好きって。

小学生のときも、中学のときも……今も。ずっと、ずっと、あんたのことが――好きなんだよ」


その告白に、鼓動が高鳴った。


でも、俺はすぐに答えを返せなかった。


真夜が鼻をすすりながら、でも笑って言った。


「……泣きながら告白なんて、ダサいよね」


「いや、すごく……綺麗だったよ」


その言葉が自然と出たのは、真夜の真剣なまなざしに、俺が心を打たれていたからだった。


真夜は、小さく笑いながら言った。


「ありがとう。……でも、答えは今じゃなくていい。

私も、後悔したくないって思っただけだから。……好きな人には、ちゃんと伝えておきたかったの」


森の空気が冷えてくる。


俺はそっと自分の上着を脱いで、真夜の肩にかけた。


彼女が一瞬だけ驚いたように見上げて、照れくさそうに目を逸らした。


「……バカ。そういうとこ、ずるいんだよ」


夜の静寂の中、ふたりだけの秘密基地で交わした、初めての涙と本音。

それはきっと、もう元には戻れないほど、大切な一歩だった。



---


【次回予告】


第3章 第25話「陽菜の逆襲!? 制服デート大作戦」

真夜と玲奈が一歩踏み出した今、ついに陽菜が動き出す――!?

大胆すぎる“制服デート作戦”で悠斗を翻弄する彼女の本気とは?

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