第23話『過去と現在の交差点』



玲奈と手をつないだまま、俺は駅までの坂を駆け下りていた。


もう夕陽は沈みきり、町には青い闇が落ち始めていた。

駅前の灯りがにじむ中、玲奈の表情は沈痛で、でもどこか決意がこもっていた。


「……ありがとう、悠斗。付き添ってくれて」


「当たり前だろ。何かあったら、すぐに言えよ」


「うん……っ」


玲奈の瞳に、かすかに涙が浮かんでいた。

そしてその手は、微かに震えていた。


電車の中。

席に座っても、玲奈はずっと窓の外を見ていた。


「……父、昔から体が弱くてね。入退院を繰り返してて、最近は落ち着いてたんだけど……急に倒れたって」


「病名、聞いてる?」


「正確には、まだ。でも母が“もしかしたら……最後かもしれない”って」


玲奈の声がかすれていく。


俺は言葉を探したが、見つからなかった。

だから代わりに、そっと彼女の手を握った。


その温もりが、玲奈を少しだけ和らげたようだった。


電車が駅に着いた。

玲奈の実家は病院の近くにある。


歩きながら、玲奈がふと、呟いた。


「ねえ、悠斗……覚えてる? 小学生のとき、私のお父さんが倒れて、入院してた時のこと」


「ああ……うん。確か、見舞いに行ったよな。手作りの寄せ書き、持って」


「うん……。あのとき、悠斗が“絶対元気になるから”って笑ってくれて、私、本当に救われたの」


玲奈は立ち止まり、振り返る。


「だから、今回も……その時と同じでいてくれて、嬉しかった。あの頃と変わらない“悠斗”が、隣にいてくれて」


その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。


病院に着いた。

白い無機質なロビー。空気がひんやりとして、消毒液の匂いが鼻を刺す。


玲奈の母が出てきて、玲奈に駆け寄る。


「お母さん……お父さんは……?」


「意識は戻ったわ。でも……先生が言うには、再発の兆候があって……もう、そう長くはないかもしれないって……」


玲奈が震えながら、口を押さえる。


「……会いたい。お父さんに……」


玲奈は病室に駆けていった。


俺は廊下のベンチに腰掛けて、ただ静かに待っていた。

しばらくして、玲奈が戻ってきた。


「お父さんね、私のこと、ずっと見ててくれてたって……“頑張ってるな”って。

そして、“好きな人とは、後悔のないように向き合いなさい”って言ったの」


玲奈は、ぽろぽろと涙をこぼしながら笑った。


「だから、私もちゃんと向き合う。悠斗、あなたが誰を選んでも、私は後悔しないように、全力で伝えるよ。……もう、逃げないって決めたから」


その言葉に、俺は頷いた。


「俺も、逃げない。玲奈だけじゃない。陽菜も、真夜も――みんな、大切だから。

だから、ちゃんと答えを出す。俺の心で、ちゃんと」


玲奈はそっと微笑んで、そして夜空を見上げた。


星が、いくつか瞬いていた。


それは、彼女と俺の過去と今が、静かにつながっていくような光だった。



---


【次回予告】


第3章 第24話「真夜の涙と秘密の約束」

玲奈と向き合った悠斗に、今度は真夜が本音をぶつける。

強がりな彼女が見せた涙の意味とは――。

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