第4話 ギノ村

サーショ村を出発してしばらく旅を続けたミサキとリーナは、目的地であるギノ村へと到着した。


「うわぁ……のどかですねぇ……」


村の入り口に立ったリーナは、目の前に広がる風景を見て驚いた。


サーショ村もかなり田舎だったが、ギノ村はそれ以上に素朴だった。


家々は木造の小さなものばかりで、石畳の道すらなく、地面は踏み固められた土のままだった。


道の脇では、村人たちが手作業で畑を耕している。


子どもたちは木の枝で作ったおもちゃを振り回しながら遊び、ニワトリが道端をのんびり歩いている。


「……確かに、田舎度はサーショ村以上だな」


ミサキも辺りを見回しながら苦笑した。


しかし、そんな田舎の風景を目にしながらも、どこかワクワクしてしまうのがミサキとリーナだった。


「でも、こういうところも悪くないですね!」


リーナが目を輝かせながら言うと、ミサキも頷く。


「そうだね。せっかく来たんだし、いろいろ見て回ろうか」


そんな中、二人の視界にふと広い牧場が飛び込んできた。


「牧場だ!」


リーナが嬉しそうに駆け出す。


「本当だ」


ミサキも笑いながら後を追った。


木の柵に囲まれた牧場では、のんびりとした牛や羊が草をはんでいた。


近くには放牧されているポニーやヤギの姿もある。


「かわいい……!」


リーナは柵の向こうの羊に手を伸ばすと、ふわふわの毛並みに目を輝かせた。


ミサキもそばにいたポニーに手を差し出すと、興味を持ったのかポニーが鼻を近づけてきた。


「おっ、おとなしいな。いい子だな」


二人はしばしのどかな牧場の雰囲気を楽しみながら、田舎ならではの穏やかな時間を満喫するのだった。


***


しばらく村を歩いてると――ふわり、と香ばしい匂いが漂ってきた。


「……凄くいい匂いするな」


「ですね!どこからでしょうか?」


二人は匂いに釣られるように歩き、村の広場のような場所にたどり着いた。


そこでは屋台が出ており、美味しそうな串焼きを焼いていた。


「お嬢ちゃんたち、旅の途中かい?」


気の良さそうな店主が笑いながら声をかけてくる。


「ええ、私達は冒険者ですからね。これ、一本いくらですか?」


「へぇ、今時冒険者なんて珍しい。ここのダンジョンに用かい?」


「いや、虹の花園に行くつもりなんですけど、それよりダンジョンがあるんですか?」


ミサキは少し身を乗り出して聞く。


「ああ、つい先日、この森にダンジョンができたばかりさ。

もうしばらくしたら、王都から騎士団が来て制圧しに来るだろう。

だから、行くなら今のうちだね」


「へぇ……ダンジョンか、気になるな」


「後で行ってみます?」


「もちろん」


「おっと、串焼きだったね、1本100ガルだよ」


リーナはリュックから100ガルを取り出して店主に渡す。


この世界の通貨は「ガル」


銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨からなる通貨で、串焼きの値段から考えるに、日本と価値はそんなに変わらない。


「はいよ、熱いから気をつけな!」


二人は受け取った串焼きを見つめる。


ジュウジュウと音を立てる肉厚な塊。


表面には軽く焦げ目がつき、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。


「いただきまーす!」


ガブリと噛みつくと、肉の旨味がじゅわっと口いっぱいに広がった。


「……美味いな」


「ほんとに美味しいですね!」


塩気が絶妙で、噛めば噛むほど 肉の甘み が感じられる。


二人は幸せそうに頬張った。


「ところで私達、虹の花園って所を探してるんですけど、どこにあるか知りませんか?」


「あぁ、ここから山に入ったところさ。たが今はやめた方がいい。

最近は巨大な熊のモンスター、キラーベアが出たせいで、ロクに狩りにも行けやしねぇ。

あいつは中級モンスター、騎士団が来た時についでに追い払ってもらうつもりだ」


「ありがとう、でも大丈夫ですよ」


ミサキが軽く笑いながら答えると、店主は驚いたような顔をした。


「へぇ……あんたら、強いのか?」


「まぁね」


ミサキが笑う。


リーナも少し照れたように微笑んだ。


「そうか、もし獣モンスターを倒したら、精肉店へ行くといい。

状態が良ければ高く買い取ってもらえるぞ!」


「ありがとうございます」


こうして、二人は虹の花園を目指し、山へと足を踏み入れた。


***


山道は木々が生い茂り、少し薄暗い。


鳥のさえずりが響き、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。


しかし――


ガサガサッ!


突然、茂みが激しく揺れた。


「来たか」


茂みの奥から飛び出してきたのは、巨大なイノシシのモンスター、ワイルドボアだった。


「……デカいな」


ワイルドボアは下級モンスターで、強さは大体熊と同じぐらい。


つまり、とても危険な存在なのだが……


「はあっ!」


ワイルドボアの突進に合わせ、ミサキは地面を踏み込み、ワイルドボアのふところに飛び込んだ。


そしてその勢いのまま、ミサキの剣がワイルドボアを切り裂いた


ワイルドボアは少しの間フラフラしていたが、やがて地面に沈んだ。


「……よし」


だが、安心する暇はなかった。


次の瞬間――


「ガルルル……!」


木々の影から、オオカミが飛びかかってきた。


サーショ村のオオカミより、一回り大きい


ミサキは素早く剣を振りぬく。オオカミは横に切り裂かれた。


しかし、続けざまに新たな敵が現れた。


空中には、オオワシのモンスター。


遠距離から風の魔法を放つ厄介な敵だった。


「……なら、こっちも魔法で!ホーリー・ショット!」


「ファイアー・ボール!」


ミサキは火の魔法、ファイアー・ボールを発動。


リーナは光の魔法、ホーリー・ショットを発動


赤い炎の弾丸と黄色い光の弾丸がオオワシへ一直線に飛び、見事に命中する。


小さな爆発を起こし、オオワシはチリチリと焼け焦げた。


「よし、これで全部……かな?」


二人は少し息を整えた。


危険なモンスターたちだったが、もはや今のミサキたちの敵では無かった。


「よし、ちょっとこの肉を持って行こう」


ミサキは手早く肉の処理を済ませると、布に包んでリュックにしまった。


「後で食べるのが楽しみですね!」


「そうだな」


そして二人は少しずつ山を登って行った。

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