第46話 焼きそばはちゃんと焼け
失敗続きで料理をする気力が無く、節約しようという気持ちはただのお気持ちでしかないことを自覚しながら食事に出かけた。
なーんか疲れちゃったし、ガッツリとんかつでも食って気合を入れようか。
あの大食いチャレンジの店行こうかな。今日は変身してないから普通に食べよう。
アパートを出るとキッズたちの声が聞こえてきた。
元気だな、今日は休日だったのかな。もうすっかり無職に慣れて、曜日も日付もわかんねぇや。
キッズに限らず、大人もうろちょろしている気がする。この辺りで他人を見かけるのは随分久しぶりかも。
人の営みやなぁなんて、勝手にほっこりしながら歩いていたんだが、駅前まで出るとクッソうるさい事になっていた。
ボックスカーの上に立ち、マイクを握って叫ぶように何かを訴えている男。そうか、選挙シーズンか。
そのすぐ近くには別の男が同じ様に演説している。時折相手を指差して、何かパフォーマンスをやっていた。
こういうのって配慮して分けるもんじゃないの?
熱いなぁ、みんな日本のために頑張ってるんやろなぁ。
両方の主張する全てが、自分には無関係であると自然に考えていた。
今後もこの世界で生きていくとしても、自分が何かで困るイメージが出来ない。
俺には守る物がない。だから俺だけが強ければそれで全てが解決してしまうんだ。
あぁでも、料理スキルが手に入るまでは、この街には残っていて欲しいな。
まぁこの店の味はそれほどでもないが。などと考えながら入店。
適当に空いているカウンターに座り、ミックスフライ定食を注文。チャレンジメニューほどじゃないが、大盛りが売りらしい。
冷たい水を飲んで、ふぅと一息入れたところで気づいた。あの大食いにチャレンジしているやつがいる。
愚かな。あれは成功させる気が微塵も無い品だぞ。揚げ物ってだけで既に食いにくいのに、総重量で10キロ越えてるとかありえん。
食っているのは女性だった。チラリと顔を盗み見るともう限界ギリギリ、噴水警戒アラートが必要なレベル。そして飯はまだ半分も減ってない。
冷たくなった揚げ物なんて更に食いにくいだろうに、どう見ても敗北確定の女はそれでも挑み続ける。
その意気やヨシ!そう思いながらなるべく離れた席に移動した。
「お客さん、残したら5000円だよ。後10分だね」
ニヤニヤしてる店主の親父。いいからさっさと俺の分作れや。
煽られた女は空いたばかりの口に冷めて不味いとんかつと白飯を詰め込んでいる。それを鼻で笑う店主。
馬鹿が、アレもう吐くぞ。そんなもん見たくない。
見たくないし、俺の飯は遅くなるし、ニヤニヤしてる店主はウザイ。イライラするぜぇ。
「俺の注文したのを作ってくれませんか」
「あぁ、ちょっと待っててね。チャレンジは見張らないと駄目だから」
ウゼェェェ!
女の方もさっさと諦めろや!それ吐いたらどんだけ迷惑になると思ってんだよ。
この女は確実に吐く。それはもう火を見るより明らかだ。ならこの食材はどの道ゴミと化すことが決まっている。
じゃあもういいや、俺の信念に反することはない。
女の膨らんだ腹を睨みつけ、中に入っている食い物を意識する。
「浄化」
途端に食ったものが消え去る。口に含んだ物もだ。食材が無駄になってしまったが、どうせ吐くだけだったものである。
勢いを取り戻す女。突然のスパートに訝しむ店主。イライラしながら浄化を連発する俺。
女はもう飲み込んですら無い。口に入れたものを俺が消しているだけだ。
5分後。女は全てを食い切った。賞金は3万円+生涯無料だ。
「ば、馬鹿な!こ、こんなことが……!インチキだ!インチキに決まってる!」
はい!正解!
何故か自信満々で胸を張る馬鹿女をスタンディングオベーションで祝福して、そのまま店を出た。
二度と来るかボケが。
仕方ないのでお好み焼きを食べた。モダン焼きにしてと言ったら出来ないと言われた。
この世界が少し嫌いになった。
帰り道はとても静かだった。
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