不可抗力なのでは?
そんな恵体の縫い物屋さんの心情を察して、腰を優しく叩きながら、ツナギは傷を負ったハーフエルフに言う。
「もちろん。あなたがこの場所で最も勇敢だった。ポーションだけじゃ心許ないでしょう。白魔法を使える者を連れてくる。それまで、この出入り口は封鎖してくれ、女将とご主人。一応、いくつかある窓もだ」
「あ、ああ。分かったよ」
「言われるまでもねえ。これ以上魔物の侵入を許すかよ」
食堂の女将は出入り口の扉を閉じるかんぬきを手にし、主人は窯に入れた鉄板を引き出す為の平たいスコップを構えた。
ツナギとアビーは食堂を飛び出し扉を閉めた。外に出ると分かる。先ほどまでとは全く町の雰囲気が違っているのだ。
「うおっ、なんだこの霧は⋯⋯」
アビーは思わず目を丸くした。
すぐ向かいである雑貨屋の大きな看板が濃い霧のせいでぼんやりとしか見えないくらいだった。それでも辺りが騒然としているのが分かる。
ガンガンガンと、異常事態を知らせる鐘が休むことなく町中に響き渡っている。
「ガーゴイル!!魔物だ!建物の中に避難しろ!!」
「ケイホー!ケイホー!!」
「怪我人はいないか!?門には近付くな!!」
門番や町警備兵、各ギルド関係者。冒険者達が動き回っている様子。夜間営業の店はこれからが本番。多くの人が行き交い、語らい、飲み明かす時。
それが今は、悲鳴と怒号と鐘の音が聞こえるのみ。
「クケケケケ!」
そんな中現れた1匹のガーゴイル。他にはいない。そいつだけ。はぐれ者。挨拶代わりに、斧の剛撃。
「ふんっ!」
下から上へ。振った斧がクリーンヒット。宙にいたガーゴイルの体がさらに飛ぶ。食堂横の建物の2階の角部屋へ一直線。
ガッシャーン!!
これ以上なく気持ちの良い窓が割れる音。ガーゴイルは集合住宅の1部屋に突っ込んだ。そして少し時間が経った後。部屋の中シュンとした紫色の光が生まれてはすぐ消えた。小さな魔力石になったようだ。
すると⋯⋯。
「ああぁ〜⋯⋯なんてことだぁ~」
アビーが頭を抱えてその場にしゃがみ込む。大きな体を丸くする。背中や太もも辺りの。黒いインナーがビチビチと悲鳴をあげる程に。自分のやってしまった光景を目の当たりにして後悔と落胆に打ちひしがれていた。
ツナギが中腰になりながら、彼女の肩に手を回す。
「大丈夫、今のは不可抗力だ。いずれ町から補償金は出るだろう。中に人は居なかったみたいだし、むしろよく倒した」
ここで仕留めなければ、興奮させた状態で別の場所へ逃げられる。それは確かに危険だ。
「ほら、立って。一緒に謝りに行ってあげるから」
魔王と勇者の二刀流 ぎん @gin5401
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