そりゃあ、礼は言うでしょ。

剛な胸毛役に立たず。ハンマー音の身体から血しぶき。その戦慄でハンマーを振り下ろす事は叶わず、さらにその巨体は支えを失った。まだ半分程しか手を付けていない料理達ごと豪快に大きなテーブルをひっくり返した。




「くそっ、この野郎!!」




ハンマー男の弟分だろうか。やられた仲間を見て槍を掴み、ガーゴイルの膨らんだ腹部に突く。しかし、大したダメージはなく、逆に翼を羽ばたくこで辺りは風魔法の猛威。他2人の仲間と共に、壁へと吹き飛ばされ、体を叩きつけられてしまった。




そんな衝撃の最中、盗賊風の3人組が魔物の隙を見て店から飛び出して行く。




「やっ!」




「はっ!」




ハーフエルフの2人も弓矢で応戦。その所作とそれぞれが的確弱点を狙う相技である程度の手練れだとツナギも把握したが⋯⋯。




「ケヒヒヒヒッ!」




確かに矢はヒットしているが、ガーゴイルは不敵な鳴き声を上げ、余裕の様子。その場で宙返りして人間達を嘲笑った。




「ちっ。あいつ、プカプカと浮かんだまま、こっちの攻撃を受け流してやがるのか」




「私に任せろ」




雑貨屋の娘を守りながら、投げた剣を拾い上げたツナギの背後から女は行った。力強く踏み出した1歩。木製の床を伝わってツナギと娘の体は揺らされる。




ツナギ程の軽やかさはない。しかし、確かな重量感と迫力があった。斧を手に前に出たアビー。その体幹の強さをツナギは目の当たりにした。




やや屈んで防御の姿勢を取る2人。その前に斧を構えたアビーが立つ。




着用している真っ黒なインナー越しからでも、店の柱より逞しい太いももの筋肉が浮き上がっているのがよく分かった。濃い茶色のショートパンツ裾も力の入った臀部の盛り上がりに合わせて捲れ上がった。




そしてその体格。並の男よりも頭の位置は天井に高く、肩幅も広い。実に大ぶりの斧が良く似合っていた。




「伐断陣!!」




アビーは十分なまでに溜め込んだ気合いと共にそう叫び、斧を振り上げる。ブツッと何かが千切れるような音を立てながら、半月状の厚い刃が交わそうとしたガーゴイルのスピードを上回る。




受け流されるより早く、斧の刃は魔物の腹部に入り込み、腸と骨を共に千切り砕いた。




「シュエエエエ⋯⋯」




事切れる肉体が煙のように立ち消える。床に残ったのは小さな紫色の小石。輝きを失った宝石のようなもの。




少しの静寂。血を流して倒れるハンマー男に仲間達が駆け寄る。来ていた薄汚れたシャツが血で真っ赤に染まったが、命に別状はない。取り換えるいい機会だ。




「アビー、やるぅ!!素晴らしい一撃だ!」




「すごいです!ものすごいパワーでした!」




「おだてても何も出やしないぞ」




そう言って2人の方を振り返るアビー。革製の胸当ての留め具の一部が外れ少しズレ落ちた。




「あらあら。ポロリが出ちゃったねえ。ありがとうございます」




「何の礼だ」




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