ついに見つけましたわ!

大衆食堂❲ビービーテーブル❳




雑貨屋の向かい。同じく西側通行門の側。街道から最も近い飲食店である。昼時から営業し、閉店はギルド帰りの冒険者が酔い潰れるまで。




ギルドが戸締まりするのは日が沈みきった頃。そこから2、3時間は営業しております。ツナギの認識はそんなところだった。




緊張に胸が高まる。まるで念願伝えし想い人か。はたまた感動の再会か。それに似たような感情が芽生える中、木製の扉を開く。




足元の蝶使い付近で少し軋む音と、頭より少しだけ高い位置から鳴った軽やかな鈴の音が入り混じる。




「いらっしゃーい。空いてるお席にどーぞー」




若干ふくよかで妙齢の頭に白色の頭巾を巻いた女性の声が店中に響いた。




ツナギが想像していたよりもお店の中は広い。外から見るよりも奥行きがあった。向かって左側には、4人掛けのテーブルが3組4組。形は、四角や丸。ちょっと色合いが違う横長のものなどで様々。向かって右には5人から6人くらいがゆったり座れる大きな楕円テーブル。




側の壁に備え付けられた武具スタンド。木製の壁や柱に金属製の囲いが打ち付けられている。そこには大剣や重たそうな槍。宝玉が付いた太めの杖。革製の鎧も2、3着。体格の良い男達がクエスト帰りだったのか、テーブルに隙間なく大皿料理と酒類を注文して宴会中。








他にも2人掛けのテーブルにも何組か。店の埋まり具合は半分より少し多いくらいに見えた。




他にも女性客はいる。冒険者風、旅人風の人も。




それでも店に入った瞬間、L字カウンターの1番奥。出入り口から最も遠い席に座っている女性こそが探し人であると確信した。




何故なら、編み物をしていたからだ。もう料理も飲み物も目の前にあるのに。




遠くからでも分かる濃い赤色の毛糸は、今しがた雑貨屋の特設棚で見たものと同じ。両手に棒を持ち慣れた手付きで編み込みに入っているその姿は、この場所では異様であった。




ツナギは真っ直ぐその場所に向かいすぐ側へ。




「すみません、隣いいですか?」




ツナギがそう絶賛編み込み中の女性に訊ねると⋯⋯。




「他が空いているだろう」




そう返されたが予想通り。




「俺はこの場所がいいのだ」




「そこに座るのは許さん」




「まあ、いいから、いいから」




ツナギはにこやかにそう答えて、カウンターの下にしまわれていた丸椅子を引き出した。そうしてから気づいた、彼女のお尻の大きさに。




よく見なくてもカウンター席にある丸椅子よりも彼女の座っている椅子は大きい。しかし、でっぷりと鎮座している臀部は、椅子の天板を全て覆い隠していた。




ともあれ、1つ息を吐きながらカバンを下ろし、ツナギも腰掛け、少し彼女の方へと椅子ごと身をよじり寄せた。








4人掛けの方には、比較的軽装の男女の3人組み。立派な弓を置いたハーフエルフのグループもいた。

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