とりあえずカードを見せていくスタイル。

何かの専門店であったり、そこまで貴重な物が置いてあるわけではない。その分、つまようじから⋯⋯というのを売り文句にするくらい、扱う品物のレパートリーは豊富だ。


ポーション類や傷薬。調味料や冒険食。よく皮を乾燥させたタマネギや色の濃いニンジンや姫芋なども保存が効き使い勝手も良い。小さい子供が群がりそうな菓子や飲料、作りの簡単なおもちゃ類。文房具や物語書籍。黄金世代のカードはやはり置いてなさそうだが、地面に叩きつけて遊ぶ厚紙の遊具はあった。


他にもある程度の体格まで対応出来る下着や肌着。靴下や汗拭きタオルやハンカチ。薄手の物から防寒用に厚くしっかりとした造りのジャケットやズボンも見える。


魔物避けの爆竹や煙玉。魔獣が嫌う香水もある。店の奥の右手には魔法使い用の杖玉や魔術書もあった。さらに最奥には寝袋とテントが吊るされている。


それなりに実績のある製作所の印が入っている。寝袋の中の綿や羽毛はワタ村産の物だろうか。テントは幌の真ん中に小窓が付いているタイプ。しっかり手入れをすれば、毎日寝転んでも数年は十分に使える。てっぺんに紐を通すタイプか管を地面に刺して固定するタイプかを選べるようだ。この辺りはそれなりに値は張るが。


これだけの品揃えを整えているのは、すぐ横が町の外へ向かう街道があるという立地。ツナギのような単身旅はむしろ少数。一般的にクエストを受注し、実践探索冒険となれば、リスク分散チームワーク重視の考え方は普通のこと。


3人、5人、10、20人という団体になり、互いに背を預け身を守り合いながら、1人の脱落者も出さぬようにするもの。


人数が増えれば物はその分必要。予め準備を整えても、その日の朝になってようやく分かる天候、魔物予報、買い忘れや計算違い。物資の補充の必要性は突然やって来るものである。


そうなると駆け込むのはすぐ側にあるこんな雑貨屋。多少足元を見られ、値を釣り上げられても安全と命の保持の確立上昇の為なら致し方ない。


50年ばかり前に、看板娘の祖母が多額の借金をしながらこの場所に店を建てきったファインプレー。代々受け継いできたのは、変わらないエプロンのデザインと艶やかな髪質。そしてとびっきりの愛嬌だ。


「ポーション2本と外傷用のスライム状の塗り薬。後はあめ玉袋と冒険食も貰おうかな?イチゴジャム入りのを。⋯⋯後、このペンも1本!」


「毎度あり!サービスで私の笑顔も付けとくね!」


「い、いらねー!」


「「ギャハハハハハ!!」」


初対面の2人は顔を見合わせながらしばらくの間ゲラゲラと笑った。



「はい、お待たせ。どーぞ」 


「どうも」


銀貨1枚に銅貨4枚。購入した物をツナギはカバンにしまう。


一方で受け取った代金を看板娘はエプロンのポケットに閉まった。


「あら、この棚は随分趣味っぽいんだね。裁縫関係?」


店の左側の幅のある棚。そこだけは棚の縁に可愛らしい布テープが施されていて、様々な種類の布や毛糸。それらを編んだり結ったりするための小道具も多数陳列されていた。


「そういうのが好きな常連さんがいるのよ。口数は少ないんだけど、裁縫や編み物に関してはうるさくてね。色々要望を聞いていたら、専用の棚まで持ってこられちゃって。でも案外売れるからそのまま置いてるってわけ。この前はこのエプロンの紐をつけ直してくれたしね」  


傾いた2本のポーションにイタチかハクビシンかが長い尻尾と一緒に巻き付いているのがエプロンのデザイン。深い緑色でそれなりに使い込まれているが、腰の辺りでリボン結びにしている紐だけは真新しく見えた。紐を通す穴にもピッタリ。真っ白な白色ではなく、ところどころに桃色の繊維が無造作に編み込まれているのがおしゃれだった。


「久々に見た、そんなカード。でも、きっと可愛らしくて素敵な方なんでしょうね。ところで実は人を探していまして⋯⋯」


今日何度目かなるか分からない聞き込み、カードの絵柄を見た看板娘がニヤリと笑う。


「まさにその可愛らしくて素敵な方のことじゃない。後ろのお店にもよく出入りはしているわよ。良い出会いを⋯⋯」

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