イチジクより優れたもの、他にありませんわね?

それはまるで水龍の息吹。ものすごい速さで渦を巻いた融合魔法が男達に襲いかかる。


「まずい!みんな、俺に隠れろ!」


ショーを先頭にして男達は裸体のまま束なった。しかし、防具が鍋の蓋1枚では。


その時ばかりは2人の魔女の眼光が月を真っ赤に染める。


怒りの融合魔法を食らった男達は木の葉のように吹き飛ばされ森の向こう側へと消えていった。


「はぁはぁ」


「ふーっ」


身勝手な男達が居なくなると、一陣の風が吹き抜け、上空に微かに残っていた水がミストとなって巻い、2人の頭を冷静にさせた。


「あなた、なかなかやるわね。さすがはエルフさん!」


「あなたこそ。これほどまでの水の使い手はなかなかお目に掛かれませんわ」


「そろそろ、あの少年が仕込んでいたスープが出来上がる頃だわ。一緒に食べましょう!」


「ええ。いい匂いがしますわね」


2人の魔女は意気投合。とはいえ、男達の所業が許されたわけでない。しかし怪我の功名か。吹き飛ばされた先は、ワタ村が管理しているイチジク畑。ちょうど食べごろの実がそこら中ゴロゴロと。


男はそれをもぎり、両手に抱え、蛇に睨まれ、蚊に刺され、遠くから野犬に吠えられたりしながら野焼き会場へと戻った。



「そーだ!みんなに見てもらいたい物があったんだ」


ツナギはそう言って自分のカバンを漁る。取り出したのはカードアルバムだ。


「実はボクチン、探している人達がいまして⋯⋯」


「そんなことより、早く下くらい履きなさい。あとその美味しそうなスープもまずここに2杯」


水より冷たい視線を浴びせられたツナギであった。



冷えた体に、温かいシメのスープは最高だった。ベリンダの純水を使用し、エルフ夫人の風魔法で圧力を掛けて煮込んだ豚骨はしっかりとダシが出ていた。


「さあさあ、皆様!まだおかわりは可能ですから、どんどんおっしゃって下さいねー!」


「おーい、おかわりくれー!」


「はい、ただいまー!」


そこに脂がたっぷりと乗っていた大腸の部分をブツ切りにして入れているわけだが、その前にひと工夫。網の上で強い直火で炙っているのだ。


少し焦げ目が付くくらいにしっかりと。それ故脂のしつこさが緩和される。本来ならばワタ村へ売りに出すはずだった、イモやニンジン。しっかりと皮を剥き、角を丸めてから煮込んだおかげで豚の旨味がしっかりと染み込んでいた。


そうした味わいを楽しむ大人達に、ショーはカードアルバムの中身を見せて回っていた。


最後にそれを眺めていたのはベリンダ。カードアルバムをめくっていた手を止める。


「あれ?この人見たことあるかも」


「えぇっ!?どの人!?」


ベリンダの右肩の後ろからショーはしゃがみつつ覗き込んだ。


「ほら、このランキング99位の⋯⋯」


「斧女戦士、アビートレック?」


「そうそう。でもどこで見たのかしらねえ。どっかのお店にいたのか、ギルドにいたのか。すれ違った時なのか。ちょっと忘れちゃったけど⋯⋯でも、パミラの町だったような気はするわね」


「マジで?なんとか思い出して!ほら、タン焼いてあげるから!」


「もうお腹いっぱいで食べれないっての」

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