いけない、魔王の部分が。

エルフの商人夫婦と中堅ランクの冒険者の一団。火を囲い、肉を喰らい、酒を飲み、星空の下、最高のひととき。


しかし、このままただ楽しいだけの野焼き会で終わらせてたまるかよと、村の少年は考えてしまっていた。


ツナギはシャツを1枚脱ぎながら口を開く。


「本当にベリンダさんの水魔法は凄かったなぁ。夫人の風魔法もいつも凄いけど、1対1で勝負したら、どっちが勝つんだろうねぇ」



その発言により、明らかに場の空気が凍り付いた。アチアチの焼き立て肉を食べているからちょうどいいなどと言っている場合ではない。背筋が凍り、股間が縮み上がる。そんな感覚がこの場に居る男共を支配した。


「それは考えるまでもないわね。私の水魔法は岩石すらも貫いてしまうわよ」


「そうでしょうか。私の風魔法なら滝を逆流させて、干上がせてしまいますけど」


「ふん。どうかしら?せいぜい、砂場で子供が作ったくらいのものでしょう?」


「あらあら。先ほど、豚の糞洗いをしてらっしゃったあなたの姿は、とてもお似合いでしたよ?」


「その豚に打たれた頭がまだ良くないのかしら?ロッジのベッドで介護して差し上げましょうか?お年ですから、お辛いでしょう?」


「たかが20歳そこそこの小娘魔導士がいい気になっていますわねえ?」


「隠せないシワがここからでも分かるくらいに眉間へ寄ってますわよ?エルフのお·ば·さ·ま?」



青色のオーラと緑色のオーラがそれぞれどす黒く染まりながらぶつかり合う。もう誰にも止められない。2人の魔法使いは手にしていたフォークを置いて立ち上がる。そして少し離れた広い場所へおもむろに歩きだした。


草木が揺れ、小石が飛び散り、男達はタオルを用意しながらいそいそと。ツナギに習って服を脱ぎ始めた。


男達は誰1人として例外なく、草原の真ん中で対峙する2人の魔法使いにバレぬようポジション取りに勤しむ。


「サプライジェット!!」


「フライニングサイクロン!」


22歳対230歳の魔法対決1本勝負。


純粋な魔法力とプライドのぶつかり合い。岩をも砕く水流と全てを巻き上げる風が2人の魔女の真ん中でぶつかり合うと⋯⋯。


「うひょー!たまんねえ!」


「焼き肉で火照った体にきくぅ〜!」


「おい、誰か石けん持ってないか?」


全裸になった男達が2人の間でお行儀良く並び、空から降り注ぐ水粒で体を洗う。髪の毛を掻き、脇を拭い、股間を広げた。


月夜と星空の下で体を清める。


最高のシチュエーションだ。


2人の魔女の怒りも最高値だが。


「「きたねえもん、見せんじゃねー!」」


それは真に心を通わせた魔女達だけ達することの出来る奥義。ぶつかり合っていた水と風。共有していた怒りがバイパスとなって天高く融合する。




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