フットボールの相手チームを煽るために練習しましたから、指笛も上手いもんですわ。
「本当にありがとう」
旦那は受け取ったポーションが入った瓶を夫人の口元に近付ける。小さくコクン、コクンと喉を鳴らしながら、今日はかえって眠れない旦那と久しぶりのハッスル確定となる液体を体に含んでいった。
ピュイー!ピュイー!
そして聞こえてきた笛の音。ツナギが所持していたボトルの水を桶に開けてもらい、喉を潤していた馬も高く首を上げてそちらを向いた。
その笛の音に対して、ツナギも指笛を返す。
ピューイと3回。
現れたのは偶然通り掛かったと見受けられる冒険者御一行。体格のいい丸刈りの男を先頭にしたそれなりの大所帯だ。
彼らはショーから返ってきた笛の音色と回数で多少の安全を理解した。しかし、彼らの側には変異体である豚の魔物の死体が転がっている。念の為の警戒は怠らなかった。
重武装した前衛が3人、左右に2人ずつ。魔導師が中央に1人。後衛にも大きな槍や剣を携えたのが2人。
そう簡単には崩れそうにない陣形。個々の能力もありそうなパーティだった。
そんな彼らが3人の側までやって来た。
「あんたら3人であの豚を仕留めたのか?」
リーダー格である丸刈りの男。大人が2人3人、身を隠せそうなくらいの大きな盾を所持していた。
「まあ、そんなとこです。あなた達は町から?」
「ああ。ここ2ヶ月程な。首都のギルドからの出張みたいなもんだ。パーティ名はビゾン。俺は主格のダニーだ。よろしくな、少年とエルフさん達」
「どーも、旅立ち1年生のツナギです。こちらはルールン夫妻。この辺りの巡回商人ですね」
「お見知り置きを」
「奥様はお大事に」
荷馬車に背を預け、足を伸ばして横になる夫人の体を支えながら空いた腕を伸ばし、2人は握手をした。
「ところでダニーさん。あなたのパーティに水魔法が得意な方はいらっしゃいます?」
「ああ、いるぜ。ここにいる男共が肩を組んで踏ん張っても、あっという間に丘の向こうへと吹き飛ばすくらいの水魔法使い手がな。⋯⋯おーい、ベリンダ。来てくれ。地元の新米冒険者からのご指名だぞ」
その魔法使いは陣形の真ん中にいた若い女性。少し面倒臭そうに荷物を下ろしながら、ショーのいる方へと歩いてきた。
「なにかしら」
周りの草木と同じように、魔法使いの腰の辺りまで伸びた長い髪の毛が風に揺らされた。
「お願いしたいことがある。あそこに転がっているのは今しがた倒したばかりの大豚だ。今から解体するから、あなたの水魔法の水圧で、血抜きを手伝って欲しい」
ショーからそんな風に説明されると、このパーティーの紅一点は、うんざりとしながら深いため息をついた。
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