酷いジジイがいたもんですわ。
その中でも、真っ先に飛びついて勇者の息子の顔を見上げたのは第1発見者である、ませた様子の子。彼女は訴えを述べる。
「ツー君、ツー君!チョコレートケーキありがとう!でも、私の弟が中に入ってたハーブが辛くて泣いちゃった!」
「それが大人になるということだ」
「ナキちゃんとちゅーするよりも?」
「ちゅーで大人になれたらどれだけ楽か。真夜中に、もっと大事な部分の粘膜を擦り合わせないことには⋯⋯」
ポコン!!
ツナギがそこまで言ったところで、正面から女教師の一撃が炸裂。丸めた教科書の固い背表紙部分で魔王の息子を殴打したのだ。
「あなたは小さい子供になんてことを教えているんですか!?」
「いてー!目が覚める〜!!」
両目に涙を浮かべながら、ツナギは叩かれた頭をくっつけた指で擦る。ここにいる誰もが1度はその身で味わっている元巡回シスターの施し。だからこそ、みんながこれで最後になるだろう年長者のリアクションを笑いながら目に焼き付けていた。
「そーだ!これ、みんなからの旅立ちのプレゼント!!」
そう言われ、差し出されたのは、小さな小瓶。その中身は、おどろおどろしいまでの濃い紫色。少量しか入っていないのに、小瓶の内側に粘りつくまでの猛毒の液体だった。
ワタの村では、旅立つ若者にこういった危険物を贈るのが習わしになっている。
大昔、ワタの村とニシの村の若者2人が旅に出た。しかし彼らの冒険はなかなか上手くいかなかった。知らず知らずのうちに犯罪に加担してしまい、被害者家族から報復を受けてしまう事案が発生した。
ワタの村の若者は摘発、逮捕時に既に自決した後であった。一方の命からがら生き延びた若者がニシの村出身であることが分かると、数日のうちに雇われた悪名高い傭兵団によって村は半壊。数年後には全ての住人が姿を消し、今は魔獣が棲み着くだけの廃墟になってしまっている。
ワタの村から歩いて2日掛かる距離にあるとはいえ、先々代の頃から危険区域に指定されている場所になっている。
どういうわけか、ここ数年魔獣の数がめっきり減っているという噂もあるが。
つまりはそうならぬよう、最後は毒を食らってでも故郷に迷惑を掛けるなというメッセージでもある。
そんないきさつもあり、村の子供達も、旅に出るのがどれ程危険な事かは理解している。それがみんなの頼り先懐き先であるツナギであるというなら尚更である。
とはいえ、小遣いを出し合ったという子供達の経緯を聞いたツナギ。この猛毒小瓶を精製した村外れに住む錬金術士のボッタクリ具合には、お灸を据えねばと考えていたら矢先だった。
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