骨に宿せ魂を。
「おう、出来てるぜ。ちっと待ってろ」
頭に白く長い布を巻き、汗止めをしても、金属を溶かす炉の前では、頑固な主人はいつも汗だくだ。
しかし、その表情は達成感に満ちており、壁に掛けていた1組の剣と盾に手を伸ばすと、それをカウンターの上に置いた。
楽しみにしていた旅立ちの武器。貯めた小遣いで村唯一の鍛冶職人に見立ててもらったそれを手にするツナギの表情が思わず綻ぶ。
「ギルドの規則があるからな、ガチんちょのお前に持たせられるのは、骨や皮素材の武具だけだ」
「十分だよ、おやっさん。これから魔王も討伐出来そうだ」
「おお、そりゃすげえ。そうなりゃうちも繁盛しそうだな」
ややずんぐりとした濁った白い骨は、ストロングセロウという魔獣の角が素材。魔術で3頭分の角を密度を詰めながら固め直し、丸2日掛け、回転石で丁寧に成形した。
切れ味は鉄や鋼にはもちろん劣るが、粗悪な銅よりも数段威力があり、ある程度の軽量化にも成功している。旅立ちの少年の武器にしてはなかなかの上物だ。
盾は南方の砂地に生息するカバの素材を使用。よくしなるアオダモの板を組み、砂カバの皮の中でも、弾力があり加工に向いている顎下の部位の物を何重にも巻き付けている。
傷みに強く、様々な衝撃を和らげ、魔術全般に対しても若干の耐性がある。
「調子に乗って、強え魔獣に挑んですぐに死ぬなよ」
「その時は化けて出てやるさ」
素材代、輸送費、加工費、その他諸々。合わせて20万ゼルの大出費となったが、ツナギは満足した様子で剣盾を装着し、鍛冶屋を後にした。
ツナギは学校へ向かった。
村中の子供らが集まっても、1つの部屋に収まって勉強出来るくらいの小さな学び舎ではあるが。
それでも、10年休まずに通った思い出がたくさん詰まった場所だ。
今朝もちゃんと朝練をしていたのか。グラウンドには縦横共に、側の花壇や物置までいっぱいにラインが引かれている。時折、ところどころに何かの芽が出てくる粗末なグラウンドではあるが。ツナギはつい昨日まで、村チームの中心選手として主将腕章を着けこのグラウンドを走り回っていた。
そんなマジフトチームの元キャプテン、チョコレートケーキの配布者。今日旅立ちの日を迎える16歳の少年という肩書で教室に顔を出した瞬間。
「わ〜!!ツー君だ〜!」
端の席に座っていた小さな女の子がそう叫ぶと。教室にいた20人ばかりの子供達が勢い良く後ろを振り向いた。
注目を浴びたツナギが得意のタコ踊りを披露すると、教室中は突然夏休みがやって来たかのような大騒ぎになった。
ある者は椅子の上で飛び跳ね、ある者は転がっていたボールを蹴り上げ、ある者はツナギに力いっぱいのタックルを決める。
まるでさっきの狼達と同じような顔と息遣いをしながら、我先にと子供達はツナギの元に集まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます