別腹な。

「えー、今日は集まってくれてありがとう。すっかり夜もふけてしまった。名残り惜しいけれど、お開きにしようと思う」


「おい、ツナギ!さっきの歌、もう1回歌ってくれ!」


テーブルの中央。今日は朝早くから遊び回り、ご馳走で満腹になっても、まだまだ元気の有り余っている少年がそう叫んだ。


ツナギと呼ばれた少年は、焦った顔で周りを見渡すようにしながら、唇の前で人差し指を立てた。


「しーっ!!村長に聞こえたらどうする!」


今この場には居ない、20キロ離れた村の最奥の家で村長が大きなくしゃみをした。


そんな光景が替え歌を聴いたばかりの子供達全員の脳裏に浮かび、また爆笑が起きた。村長か週に2回やって来るエルフ巡回商人夫婦から育毛に効く薬草を内緒で取り寄せてもらっていること。


野盗の気配があると、村人全員がたたき起こされた晩、その気配の正体がニワトリ指を噛まれてのたうち回っていた村長だったこと。


新生児の命名を託されたが、綴り間違いで卑猥な名前のまま、町の役所に提出してしまったこと。


そんな内容の替え歌だった為、この場以外では披露出来ない余興ではあった。



「俺からの挨拶は以上!お土産にシェフ特製のチョコレートケーキがあるから1人1個ずつ持ち帰ってなー。あと、ポータル入る時、目と口は閉じとけよ。ローストチキンが飛び出して来ちゃうかも」


「「ギャハハハハハ!!」」




「ツナギ君、バイバーイ!また明日ねー!」


「おう!ちゃんと歯を磨いてから寝ろよ」


お屋敷の正面玄関の外。誕生日パーティーを始めた頃はまだ陽の光が白いままだったが、今はオレンジ色の夕陽も険しい山の向こうへと沈んでいる。


招待された子供達が全員ポータルを経由してワタの村へと帰っていった。それを見届けたショー。その両隣にいるお屋敷の世話役、カイウスとメイド長のイザベラの2人は静かにポータルを閉じた。


青のような黒のような白混じりのような。それ自体はそこまでの厚みはないものの、向こう側は透けて見えない。カイウスとイザベラの魔力を合わせた簡易的なポータル。それが姿を消すと、代わりに現れたのは、ただ静かで不気味な森の闇だった。


そんな中、きっちりと襟のタキシードに身を包む剣術の先生。他の人とは違う紫色の瞳をした魔術の講師役が揃ってツナギの方に向き直した。


「ぼっちゃん。大切なお話があります」


深み森の闇から、強い風が吹き付ける。それでも、カイウスのしっかりと整えられた横分けの髪の毛とその真剣な表情が変わることはなかった。


「ハーブティーをお淹れしましょう」 


イザベラはそう口にしながら、ツナギに向かって優しく微笑んだ。


「やったぁ!出来ればクッキーも付けてもらえると」


「さっきあれほどご馳走を食べたばかりではありませんか」


「イザベラ姉さんのハーブティーは別件なのだ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る