第40話 アッー!な先輩と料理対決⑤

「はい、お時間になりましたので調理終了です。お二方とも手を止めてください」


 玉森さんの終了の合図とともにブーッというブザーの音が鳴る。

 しかしながら母さんもジローさんもその直前に無事に盛りつけまでを完了。

 たった一品とはいえ45分という決して長くない制限時間でキッチリ最後まで仕上げきった二人はさすがと言わざるをえない。


「ではここからは実食に移ります。そうですね……まずはどちらからにしましょうかベイビさん?」

「う~ん……じゃあまずはジローさんで」

「ほう。その心は?」

「ああいや、あと単純にパスタとシチューならパスタから食べた方がいいかなって。コース的な考え方なら逆かもしれないですけど」

「あーパスタが伸びちゃいますもんね。たしかにレストランのコースと言えばスープとか汁系からとはいえ」

「そうですそうです」

「なるほど、やはりベイビさんは冷静ですね。これぞVランド随一の智将の本領発揮と言うわけですね」

「え、なんですかその異名? すごい初耳なんですけど……」


【コメント】

 :す、すげぇ……(ゴクリ)

 :ああ、さすがベイビさんだ

 :神童ここに現る

 :これはVTuber界の諸葛孔明ですわ


「どこが!? なんですか急にその気持ち悪い持ち上げ方! やりづらいからやめてください!」

「ふふ、お気遣いありがとう孔明殿」

「ジローさんまで!?」

「まあ実際問題カルボナーラは冷めるといろいろ硬くなっちゃうからね。……そう、まるで猛ったときの僕の股間のごとく」

「すいません、意味が分かりません」


【コメント】

 :wwwwww

 :どういうことww

 :股間のごとくw

 :急に繰り出されるダイレクトな下ネタ

 :股間みたいに硬いパスタってなんだよw

 :パスタギンギンで草


「さ、それじゃあ召し上がれ。ちなみに料理名は『香ばしベーコンの贅沢カルボナーラ~クリームの海に抱かれて~そして今宵の君も僕の腕に抱かれる運命(さだめ)~食後はベッドでギンギギン~』だよ」

「なっっっが! 長いし“~”多っ! しかも結局ギンギンになっとる!!」


【コメント】

 :なげぇwww

 :どんだけだよw

 :中盤から全然料理関係なくなってて草

 :これ実際にレストランであったら恥ずかしくて注文できんだろw

 :ここまでくると途中のクリームもなんだかイヤらしい単語に見えてくる不思議

 :ジローさんの濃厚クリーム・・・


「ちなみに長いので略称はギンギンカルボナーラで」

「それはそれでなんか不快なんですけど! なぜあえてそのワードを残したんですか!?」


【コメント】

 :ギンギンカルボナーラwww

 :あくまでギンギンにこだわるw


「まあまあ、名前はともかく味はフツーのカルボナーラだからさ。むしろ出来としては会心だよ」

「はぁ……たしかに見た目はすごいウマそうですけど」


 皿に盛られたカルボナーラを見下ろす。

 濃厚なソースの絡まったやや太めのパスタ。大き目にゴロッとカットされたベーコン。パラリと振られた粗びきの黒コショウや、てっぺんに乗った卵の黄身の存在もニクい。

 どれもこれもが俺の脳内にある食欲センサーを刺激してくる。


「というわけでベイビさん、そろそろいただきましょうか」

「ですね。それじゃあ――いただきます」


 フォークを持ってパスタを巻いていく。

 崩した黄身がとろりとパスタに絡み、これまたさらにおいしそう。

 俺は高まる期待感とともに口に運んだ。


「ウマっ……!!」

「おいしい……!!」


 隣の玉森さんともども思わず声が出る。

 わかっちゃいたがジローさんのカルボナーラは最高においしかった。


「すごい……めちゃくちゃおいしいですよジローさん!」

「おーそれはよかった。ちなみにどこら辺が気に入ったとかあるかな?」

「いやもうどこがって言うか全部です! しっかり黒コショウが効いてるけどちゃんとチーズの風味とマッチしてて、それでいてクリームの濃厚さがすべてを包み込んでるって言うか……! あとやっぱりこのベーコンが食べ応えがあっておいしい!」

「いいですねこれ! 最初はパスタと言えば白ワインかと思いましたけど、これだけ味にインパクトがあると一周回ってビールもアリです! 夏の野外フェスとかで冷たいビールなんかと一緒に食べても最高ですよ!」


 興奮とともに食べ進める俺と玉森さん。

 お互いこれが配信であることを忘れそうなくらい一心不乱だ。そして二人ともあっという間に完食する。


「ふぅ……おいしかった」

「いやほんとに。素晴らしかったです」

「いやぁまさかここまで喜んでもらえるとは。フッ、これはこの勝負、僕がもらったかな?」

「ぐぬぬ……さすがですね次郎先輩。でも勝負は終わってませんよ。まだ私の番が残ってますから」


 そう言って今度は母さんが皿を運んでくる。

 そうだった、これはあくまで料理対決。満足しすぎてうっかり忘れそうになってしまったけど母さんの料理を食べるまでは決着じゃない。

 ただ、とはいえこうなると若干厳しいような気もしてくる。このジローさんのカルボナーラを上回るのはいかに母さんと言えども難しいのでは……?


 しかしながら、どうやらそんな俺の懸念は杞憂だったらしい。


「うふふ、実は今回コッソリとちょっと新しいことに挑戦してみたの」

「新しいこと……?」

「うん、というわけでこちらをどうぞ」


 テーブルに置かれた2つの皿。その上にかぶせられたレストランでよく見るような大きな銀色のフタを母さんが取る。

 すると中から出てきたのはなんとこんがり焼かれたパイで皿が覆われたシチューだった。


「おお、すごい! なんか高級なお店とかであるやつだ! 初めて見た!」

「なるほど、これはいわゆるパイ包みというヤツですね。たしかにこれは見るからにワクワクするし嬉しいですね!」

「でしょ? 名付けて『ほろほろ豚肉と優しいシチューをパイで閉じ込めて~ついでにたっくんのことも私のパイで包みたい~今夜ベッドで待ってます~ママより~』」

「だから長すぎだろ名前!!」


【コメント】

 :草

 :草


「さっきのジローさんに対抗してみました」

「わざわざ!? いいよ対抗しなくて! そこ別に競うところでもないし! つーかなんだこの名前! もはやほとんど料理関係なくなってるじゃん!!」


【コメント】

 :もはやただの手紙で草

 :ママよりwww

 :私の「パイ」w

 :随所にネタしかねぇwww

 :今夜ベッドで待ってますw

 :さっきのジローさんといいどっちもベッドで待ってるの草

 :なんで当たり前のように料理名にベッドというワードが入るんですかねぇ(呆れ)

 :果たしてたっくんはどっちのベッドを選ぶのか!?


「いや選ばんけど!? なにそれいつからそういう勝負になったの!?」

「しかし言われてみると改めてすごいですね。見てくださいベイビさんこのパイの形、地味に先端が尖ってます。これは恐らくオッパイとその先端にあるチ〇ビをモチーフにしたものでは……」

「今回の一番のこだわりポイントです」

「よりによってそこが!? いらんわそんなこだわり! そしてハルちゃんさんも変なとこに気づかなくていいですから! ……あーもう、いいから食べますよ!」

「了解です。では早速」




――――――――――――――――――――――――――

どうでもいいあとがきコーナー


余談ですが、作者は昔ファミレスで料理名と勘違いしてメニュー横の「魚介とトマトのうんちゃらかんちゃら~」みたいな長い説明をひたすら読み上げた挙句、店員さんから冷静に「あ、はい。ペスカトーレですね」と返された悲しい過去があります。

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