第10話 影の兆し、母の誓い
数日ぶりに、村に静かな朝が戻ってきた。
沙耶はリュカをおぶって、朝の支度をしながら鼻歌を歌っていた。
「ふふん♪ リュカ〜今日も元気に“ぷにぷに体操”しちゃうぞ〜」
リュカ「ぷー!(ぐるん)」
「ちょ、転がるの早いっ!」
そんな幸せな日常。けれど、その裏側で――
リリィは、村の長老たちと緊迫した話をしていた。
長老たちの集い
「“影の気配”が北の森に現れたと?」
「間違いありません。精霊の風もざわめいています。」
リリィの言葉に、年老いた長が眉をひそめる。
「村に結界は張っておるが…もし奴らの狙いが“光の子”なら、突破される恐れもある。」
「このままでは、沙耶とリュカが危ない。」
リリィは唇を噛んだ。
帰り道の森
沙耶は薬草摘みの帰り道、ふと森の気配が変わったことに気づいた。
「……なんだろう、急に空気が冷たくなったような――」
「……“光の子”」
背後から、ぞっとするような低い声。
そこには、漆黒のローブをまとう男が立っていた。
顔は隠れているが、ただならぬ威圧感が漂っている。
「その子を、こちらに渡せ。」
沙耶の心臓がどくんと跳ねた。
「……やだ。絶対に渡さない。」
震える声。だけど、足は一歩も引かなかった。
男は無言で手を掲げ、禍々しい闇の気配が空気を震わせる。
「――やめなさい!」
風がざわめき、リリィが現れる。
「沙耶、走って!リュカを連れて、すぐに!」
逃走、そして祈り
沙耶はリュカを抱きしめ、全力で駆けた。
恐怖と焦りで足がもつれそうになりながらも、ただひたすらに走った。
(お願い、お願い、神様……)
そのとき――
「……あったかい。」
リュカがぽつりとつぶやいた。
次の瞬間、沙耶の足元に光の輪が広がり、転倒を防ぐように風が身体を支える。
「リュカ……今の……あなたが?」
沙耶の胸の奥で、何かが強く確信に変わった。
夜、リリィの家で
「……ごめんなさい、巻き込んじゃって。」
「謝らないで、沙耶。あんたは立派だった。」
リリィは穏やかに笑い、湯を差し出す。
沙耶はリュカを寝かせながら、小さくつぶやいた。
「もう決めたの。どんなに怖くても、この子を守る。
ママだから。ママでいるって、決めたから。」
影は忍び寄る。
けれど、それ以上に強くて、あたたかな光が、今、ここにある。
それは、“母の愛”という、世界でいちばんやさしい魔法――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます