第9話 光の子と精霊の約束

「この子の力は、わたしたちにも届いている。」


そう言った銀髪の少女は、泉の光をまとって立っていた。

その雰囲気はどこか、人間のそれとは違っていた。


「あなた……本当に、“精霊の子”なの?」


沙耶がおそるおそる尋ねると、少女はこくんとうなずいた。


「私は“ルミア”。風の精霊の末裔。……リュカに会いに来たの。」


リュカは沙耶の腕の中からじっとルミアを見つめていた。

泣きもせず、むしろ安心したようにその瞳を細める。


「リュカ……知ってるの?この子のこと。」


「きっと、覚えてるの。“魂の記憶”ってやつよ。」


横にいたリリィが、小さくつぶやいた。





静かな木陰、ルミアの語り


「光の子はね、ただの赤ちゃんなんかじゃない。

この世界を守る“光の核(コア)”を宿した存在。」


「えっ……」


沙耶は目を丸くした。


「でも!そんなの……ただの赤ちゃんに、そんな役目を――」


「ううん。今は“役目”なんて関係ない。」


ルミアはふわりと微笑んだ。


「この子が笑ってくれること。あたたかく包まれること。

それが、光を安定させる“いちばんの魔法”なの。」


その言葉に、沙耶の胸にぽっと火が灯る。


「じゃあ……わたしがちゃんと、愛して、育ててあげれば――」


「うん。それがいちばんの力になる。」





リュカの笑顔、泉に舞う光


そのとき、リュカが小さく笑った。

それと同時に、泉の水がほのかに輝き、宙にふわりと浮かび上がる。


「えっ……これ、リュカが?」


沙耶の驚きをよそに、リュカは満足そうに笑っている。

まるで「だいじょうぶだよ」と言ってくれているような、不思議な安心感があった。


ルミアはその光を見つめながら、そっと言った。


「でも……この光をねらう者は、これからもっと増える。

“影”は、すぐそこまで来てるの。」


その瞬間、風がひゅっと吹き抜けた。まるで何かが、遠くで目を覚ましたかのように。







リュカの中に眠る光は、まだ小さな火種。

けれどそれは、母と子の絆で守られ、少しずつ確かな“力”へと育っていく。


その優しさが、世界を変える魔法になる――

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