第5話


 東京都内の某所、かなり人通りがある大通りのすぐ脇の道が事件現場だった。4月の昼下がり、ぽかぽかとした日差しの中で2人は到着した。どこにでもあるような普通の道、しかし今はぽつぽつと大小の血染みが落ち、電柱には何かを擦ったような跡があった。


「こちらです。事件は5日前に発生しました。被害者の末光海斗参議院議員は環境問題の解決を強く主張しておりまして、いつも自転車で登院なさっていました。ですが当日は自転車の不調のため徒歩で向かっておりまして....あ、勿論SPの方が4、5名ほど付いておられました。それで、この道から大通りに出ようとしたところを...です」


 槻本は周囲を見回している天国に少し後ろから声をかけた。


「へえ、なかなかに熱心な政治家さんだね」

「知らなかったんですか? 大分有名な話ですよ? ただ、少し熱心すぎるので反感も買ってると聞いていますけどね....」


 出る杭は打ちたくなる、それが人間だ。以前にも待ち伏せされたりしたことがあったと周囲の十人が言っていたことを思い出した。


「どうですか、天国さん。何か、ありそうですか?」

「そうだね....僅かだけれど、霊の類の気配を感じるよ。ただあまりにも微小すぎてどんなものなのかまでは分からないけれどね」


 天国は赤黒い染みが僅かに残る道路を見つめながら呟いた。


「まあ、貴方の話と、さっき見た報告書、とこの現場から見て、よほど強い霊だろうね。何せ3人も殺しているんだ。今までに霊が人に危害を加えるから何とかしてほしい、という依頼は何件かあったけれど、ここまで殺意が強いものは初めてだ」

「何件かって....他にもこういうことがあるのですか?」


 手帳にメモを取りながら聞いていた槻本は驚いて顔を上げた。


「そうですよ。ちょっといたずらをするものから、地縛霊の供養、あとはこういう事件もあったね。警察に相談できないとか、藁に縋る思いで私の所まで来る人もいたね」

「へえー……」


 そう言う類を全く信じていなかった槻本は初めて耳する情報に目を丸くした。いくら何でも縋る物を間違えていないか? と思いつつ、口では次の提案をした。


「天国さん、今から被害者の方にお話しを聞きに行きませんか?丁度家が少し行った場所にあるんです」

「大丈夫なんですか? 突然行ったりして。末光さんにも予定があるのでは?」

「いえ、彼は現在静養中で、警察の捜査にも協力的なんです。まあ、これは陰謀だ、とか息巻いているだけですけど」


 槻本は数日前に行ったという蒼樹から聞いた話を思い出し、嫌な汗をかいた。


「それでも協力的なだけいいんじゃないですか?私も効きたいことがたくさんあるから....是非お願いするよ」


 天国は槻本の方を振り返り、それで、どちらに行けばいいのかな? と尋ねた。

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