第3話『試練の塔と謎の転入生』
翌日。ユウリの体調はすっかり回復していた。
とはいえ、あの「爆発パンケーキ事件」で彼の名は一躍有名に。登校初日だというのに、廊下を歩けばヒソヒソと噂が聞こえてくる。
「……あの子よ、昨日の結界を張ったっていう……」
「転入してきたばかりなのに、魔法制御で教師レベル……?」
「見た?ティナ=マクレガーと一緒にパンケーキ食べてたわよ!」
「……ふぅ。目立ちたくねぇのに……」
ユウリがぼやく横で、ティナは今日も元気だ。
「ええやん!有名になったほうがチャンス増えるって! それより、今日はついに“あれ”やで!」
「“あれ”?」
「試練の塔やん! 転入生は、魔力適性を見るために、必ず初回の塔に挑むんよ!」
ユウリは眉をしかめた。
「試練って、あの塔か……。昨日、遠くに見えたデカいやつ……」
セレスティア魔法学園の敷地の奥、雲を突くようにそびえ立つ石造りの塔。そこは“魔力を映す鏡”とされ、入る者の内に秘められた属性や可能性をあらわにするという。
「へー、そいつが今日の見ものか」
その時、背後から涼やかな声がかかった。
振り返ると、そこには銀の髪をたなびかせた美しい少年が立っていた。白銀の瞳、整った顔立ち。年はユウリたちと同じくらい。
「誰……?」
「ああ、ご紹介するわね」
どこからともなく現れたのは、クラス担当の教師、ミラ=フォン=アーデン。金の縁眼鏡を押し上げて言った。
「彼は今日からこのクラスに編入する、シン=ヴァルティエル。セレスティア北本校からの特待転校生よ」
「よろしく。……ま、あんたには負ける気しないけどね」
いきなりユウリを見据えてニヤリと笑うシン。
「……なに?」
「聞いたよ。昨日、暴走魔力を反転させたとか。制御結界で教師陣が驚いたって」
「別に、俺は目立ちたいわけじゃ――」
「でも実力はある。なら――負けたくない。俺は“最上位”を目指してるから」
目が合った瞬間、ユウリの中で何かがざらりと波立った。
(……この男、ただ者じゃない)
「……なら、勝手に目指してろよ」
「ああ、目指すさ。あんたより上を、ね」
---
昼過ぎ。試練の塔、通称“鏡の塔”。
重厚な石の門が軋む音を立てて開き、ユウリとシンが中へと足を踏み入れた。ティナと他のクラスメイトは外で見守る。
塔の内部は、まるで空間が捻じれているかのようだった。
階段は逆さに延び、浮遊する足場が空中に点在している。
そして中央には――浮かぶ魔法陣。
《魂の紋章に問いかける。汝の本質を、映せ》
塔が喋った――そう錯覚するほど、低く重い声が響いた。
「来たな……!」
ユウリの前に、淡く光る人影が現れる。自身の魔力が具現化した“影の自己”。
「これが……俺……?」
しかし次の瞬間、影は黒い炎を纏い暴走を始めた。
「ユウリ!それ、制御を誤ると本当に意識を喰われるで!」
「……制御……俺が?」
ユウリは瞳を閉じ、息を整える。
「落ち着け……これは俺の中にある魔力……なら、俺が見つめるしかない……!」
《汝は何者か。汝の名を以て、内なる真を掴め》
ユウリの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「俺は……ユウリ=アーデル。見捨てられた孤児だ。でも……」
「今は、この世界に生きると決めた……!だから――!」
光と闇の渦が爆ぜ、塔が揺れる。ユウリの影は、静かに姿を変えた。黒と白が交差する、羽のような形の魔力結晶――
「“双極属性”……!?」
シンが目を見開く。
「光と闇、両方を持つなんて……!」
その瞬間、塔の上層が崩れかけ、ユウリとシンの足元の床が崩れ落ちた。
「っ! 危ない、掴まれ!」
ユウリが手を伸ばす。だがシンはそれをはたき、にやりと笑った。
「へぇ……お人好しだね。落ちるわけにはいかないから――」
彼の足元に魔法陣が現れ、宙に銀の翼が浮かぶ。
「“空間跳躍”……!」
「じゃ、またあとで」
シンの姿がふっとかき消えた。
「ちっ、性格悪いなアイツ……!」
ユウリは結局、自力で壁にしがみついて這い上がる羽目になった。
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塔の外に戻ると、ティナが心配そうに走り寄ってきた。
「ユウリ!無事なん!?」
「なんとかな……」
「でも、あんたの属性、すごいもん見せてもろたよ。“双極”なんて、伝説級やん……!」
「伝説……?」
「そや。光と闇をあわせ持つ者は、かつて『世界の均衡を司る者』と呼ばれたんよ」
その言葉に、ユウリの中の“声”がまた囁いた。
《選ばれし者よ。光と闇、両方の魂を受け入れし者――その運命を試す時が来る》
――物語は、まだ始まったばかりだ。
---
次回予告:第4話「封じられた図書館と古文書の謎」
ティナと共に、学園の地下に眠る“禁書図書館”へ向かったユウリ。そこに記されていたのは、「星を喰らう魔神」の予言と――彼の名前だった。
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