第19話 貴族学校 ③お泊まり会  -1/3-

七月三日。

今日は約一週間ぶりにルネが来ていて、プラグは午後から彼の稽古を受ける事になった。


いつもと違うのは室内では無く薔薇の館の広い庭でやっている事と……この場に上位、下位、事務クラスを含めた候補生『全員』がいる事だ。

引率はリズ。

リズは「今日の鍛練は――見学!」とのたまった。

つまり特別訓練が自己申告制になったので、三倍のプラグが普段どの程度の訓練をしているのか知るために来ているのだ。


これはつい先程言われて、プラグはとても驚いた。

ルネが『今日は気分を変えて外でやろう。そろそろ、もっと盛大に動きたいよね』と言ったので二人は庭に出た。

確かに訓練棟の部屋は屋根があるので動きが制限される。プラグとしても、天気がいいので外で動きたかった。

『後で見に来る人がいるから、緊張せずに普段通りに。少し体を温めておこうか』

と言われたので、プラグは首を傾げながら、いつも通り殺すつもりで稽古を始めた。


「そう、その調子!」

ルネはプラグの回し斬りをあっさり躱して、切っ先が過ぎたところで突きを入れてくる。

しかしプラグは後退していて横に逸らして切っ先を弾いた。

受けたルネは馬鹿力で下から巻き上げて、左手を重ね、プラグの剣を取ろうとした。剣取りは距離が近くなるのでプラグは左足を軸にしてルネの脇に蹴りを入れたが、ルネはあっさり避けた。蹴る際にルネの手から剣を外し自分の左腕を、ルネの両腕の間に差し入れて投げの体勢を取ったが、ルネは腕を支点に素早く一回転して逃げてしまった。

そのままプラグは距離を詰める。プラグは突きからの斬り上げでルネを一歩下がらせて、もう一歩踏み込んで裏刃で斬るのだが、ルネの動きは素早く、どれも避けられてしまう。今度はルネが斬り掛かり、わざとつば迫り合いに持ち込まれた。

プラグとルネは読み合いになるので、つば迫り合いは力の微妙な強弱と、剣のずらし合いになる。お互いに押し込みの強さ、緩急も自在なので、力を抜いて引くか、そのまま押すか凪ぐか突くかはもはや感覚だ。ルネが押して来たのでプラグは流した。しかしルネがしつこく巻き上げて、剣を絡め取る。ルネの剣は巧みすぎて、気を抜くと剣を落とされる。

危うく取られそうになって、プラグは剣を振り上げ、振り下ろした。これはルネの不意を突いたらしく、ルネが少し下がった。

「ふうん、よし……!」

ルネが一気に間合いを詰めて剣っ先の『速さ』を上げた。プラグは舌打ちしながら何とか防いでいく。ところが徐々にルネの動きが大きく、強くなる。大ぶりの回し斬りを途切れさせること無く、大きく剣を振ってプラグを吹き飛ばす勢いだ。ルネが大振りをするのは珍しいのだが、一つ心当たりがあった。『君って本来はこういうのが得意なんだよね』と言っているようだ。

プラグも力強い剣に切り替えるが、体格差と力の差の分、分が悪い。ルネの剣は鋭く速く、避けたと思った時には反対側の予期せぬ方向から刃が飛んでくるのだ。

風に当たるだけで痛いし、切っ先を流すだけで強い衝撃が来るこの感覚は、外から見ていても分からないだろう。

「――ッ」

ルネの弧を描く剣を避けながら、プラグは剣の平を横にして、一瞬、深く踏み込み、攻撃に転じる。隙を探して水平に斬る――大きく弧を描く剣に弧で対応するのは疲れるだけだ。

直線的な攻撃を繰り返し、背後、前方、時には上から、下から、真っ直ぐに狙っていく。

ルネの一閃により訓練着の左肩が斬れる。ルネのマントにも何カ所か傷が付いている。ルネの赤い横髪が舞うが、そちらは軽く揺れるだけだ。

二人とも根気よく捌き続けていたが、ルネが体の向きを変えた時、プラグはルネの右斜め下から真っ直ぐ剣を振り上げた。突きで無いのは次を見越しての事だが、次は無く、ルネは彼の右手を切るはずの一閃を、柄を下げて食い止めた。

そしてプラグをそのまま弾いた。

「! ――チッ」

プラグは崩され、二歩下がって、歯を食いしばって構えを直した。

プラグが大きく駆け出そうとしたところで、ルネが首を少し上げた。終わりの合図だ。


プラグは足を止めて剣を軽く振って力を逃がし、剣を下ろした。

風斬り音をかき消すように、周囲から歓声と拍手が湧き上がった。

「おおおおーっ!!」

候補生達は途中から、生け垣の内側で腰を下ろし、二人を囲んで静かに見学していた。

リズが候補生達にのんびりと説明した。

「えーこれが、三倍訓練だ。こいつはルネ相手にこんな感じでやってる」


プラグは若干息が上がっているが、ルネは汗一つ掻いていない。

プラグを見て眉を顰め、溜息を吐いた。

「ふう。こんな物かな。相変わらず気合いが足りない」

「はぁ、ふぅ……ありがとうございました」

プラグは頭を下げた。休憩が入るのは観客がいるからだ。


するとルネが、ものすごい笑顔で候補生達を見た。

「あっ、そうだ言ってなかったね! 今日のプラグの下着の色はね、み――」

「ふっざけんな!」

プラグは思わず叫んで、斬りかかった。受け止められて鍔競り合いになる。

「おっと、今までで一番殺気の籠もった攻撃だ――はは」

ルネが笑顔で剣を左に巻き、鍔競り合いを外してしまう。しかしプラグも見通している。プラグは僅かに突き出しながら切り上げる。ルネが少し仰け反り前髪が持ち上がる。

「おお?」

「次、行きますよ。軽くでいいですね?」

プラグは中段に構え直した。いつも通りの鍛練はとても見せられる物では無い。

毎回『治療』を使っているし……。倒れるまでやらされる。

だが、良い機会なので、皆にもルネの稽古を受けてもらいたい。

特にシオウ。だがシオウはシオウでリズが相手なので、苦労しているかもしれない。


プラグは間合いを一気に詰めて、ルネに肉薄して、下段からの突きを入れた。

「っ?」

高さを持たせた剣筋は、ルネの意表を突いたらしく、ルネはプラグの剣の根元に、自分の切っ先を当てる防御の型を取った。プラグの方が力が乗っていて、ルネがやや体勢不利だ。ルネは剣の傾きに沿って、プラグの剣先を流し、外に逸らそうとするので、プラグはそのまま上に大きく弾いた。

そして手首を返して右斜め上から左下に大きく切る。

ルネは誘いには乗らなかった。ただ何をするのか剣を構え直して見ようとしている。

プラグは左真横から全力で剣の腹を叩いた。

直撃を受けたルネの剣が振動する。

「うーわ。軽く、って言ったよね? ウソツキだなぁ……!」

「そうでしたっけ?」

「――これ、反則だと思うんだよ! ユノが受けたってヤツだよね」

ルネの剣は振動し続けている。ルネは力を抜いて剣を引いて、柄に触れ直して振動を止めた。

ルネを怒らせたらしく、そこからはルネがやる気になった。プラグがやった事をあっさり真似している。お互い、手が痺れて仕方ない。プラグとルネはしばらく防ぎ合いをして、つば迫り合いになり、最後は力押しでルネに弾かれ、やや体勢を崩して止まった。

すぐに立て直し、と思ったら首に切っ先があった。

プラグは唸った。速すぎる。ただしルネの手はまだ痺れていると見た。しかし、負けは負けだ。

「はい、取った!」

ルネが笑った。

「……ありがとうございます」

プラグは剣を引いて頭を下げた。


「おおおおお――!」

また拍手が起きた。

……やりにくいどころの話では無い。

ルネが手を軽く振って剣を見つめた。

「うっわ。刃こぼれした――勘で真似したけど、どうやってる?」

「その都度、剣の中心を狙いつつ――微妙に防ぎにくい角度から攻撃するとできます」

「だよね。真似したらできた。でもムカツク剣だな。これって技名があるの?」

ルネに言われてプラグは首を傾げた。

……意外に難しいのだがルネはあっさり覚えてしまった。

「特にないです。当たると痺れる剣とか?」

「だっさっ……次までに考えといて。宿題」

「分かりました」

頷きながら、プラグは内心で、こっそりと悔しがっていた。

……『当たると痺れる剣』で、ルネの剣を落とせるかと思ったができなかった。

ルネの一番の強みは柔軟性だ。性格は真面目なのだが、戦闘に関してはとても思考が柔軟なのだ。体も柔らかく、常に動きに余力があるのも恐すぎる。力も強いし、本当に人間かな? と思うくらいだ。


今、気付いたのだが、候補生達の後ろに近衛兵がいる。

クエンティン、ランドル、後はフードをかぶった近衛が三人……? 

合わせて五人のようだ。

候補生達が「さっぱりわかんねぇー!」と言いながら温かい拍手をしてくれた。


リズが候補生達に向き直った。

「――というのが三倍だが、お前等、手、抜くなよ。特にルネ。なんだそのヘロヘロは。プラグも、もっと気合い入れろ! お遊びじゃ、参考になんねーだろーが!」

リズが言った。

するとルネが、手を振って痺れを取りながら苦笑した。

「だって、ねえ? あんまり本気を出しちゃったら、誰も来てくれないし」

「ですよね。俺も皆に、公爵の素晴らしい稽古を受けてもらいたいです」

「珍しく気が合うね」

「ふん」

プラグは息を吐いてそっぽを向いた。


「おめーら、仲、悪いのか?」

リズが言った。プラグは微笑んだ。

「いえ、そんな事はありません。ルネはとても良い教師なので、お勧めです。ああ、公爵か……、公爵にはいつも、……良い感じに稽古を付けて頂いています。だいたい」

プラグの言葉に、リズが口の端を上げる。

「ふーん。まあ、つー感じだ。参考までに、もうちょっと。どんなところが良いか、どう言う事が学べるか、教えてくれ」

リズの言葉にプラグは考えた。


「そうですね……ルネ……いえ公爵は、大変分析力に優れているので、相手に合わせて上手く技を変えてきます。だから先生には向いているのでは無いでしょうか。学べるところで言うと、型がしっかりしていて、しかも幾つも収めているし、指摘も的確なので、誰にとっても良い先生になると思います。こうしたら? という助言はとても参考になります」

プラグは、にこやかに微笑んだ。

……この感じで嘘をついていれば、力がとても回復しそうだ。


「ふーん。本音は?」

「卒業までにぶっ殺したいです。それが無理なら倒します。せめて、剣を落とすところまでは……ホントくっそ強くてむかつきます」

プラグは微笑んだ。


「――つー感じだ。まあ、無難に育ててくれるはずだ」

リズがちょっと説明不足な感じで締めた。

候補生達はざわつき「え……プラグが……?」「ぶっ殺す?」「むかつく……?」「聞き間違い?」と呟いている。


「じゃあ、続ける?」

ルネが爽やかに笑った。

「こういう嫌らしいところがあるので、ルネの訓練を受ける人は、気を付けて下さい――」

プラグは言って、なるべく軽く、と思うのだが。

ルネは一足も無しに間合いを詰めて、鋭い突きを繰り出した。プラグの体感としてはすぐ目の前にいた、だ。顔面を狙っている。プラグは剣の平を正面に掲げる格好で、剣を引き上げ、根元近くで真正面から受けた。僅かに左に逸れたので、剣を巻き付けて突き返そうとするが、同じく巻かれて逆に押し返される。力を抜かれ今度は右に振って首を狙ってきた。これは半歩動いて躱し、体の場所を変え、ルネの背中側に剣を凪ぐ。プラグの場所取りは完全に攻撃線から外れているのだが、ルネは予知したかのように振り向き様に弾いて、逆に絡め取ろうとする。プラグは力を込め押し返して、一瞬の間に、ルネに合わせて少し切っ先を上げて中段に構え直す。ルネの詰めた間合いはやり直しだ。


ルネが口の端を上げる。

「最近、この子はちょっと、型を変えてくるようになった」

「そうでしたっけ?」

「元々、手の多い子だけど、まあ面倒なこと」

「気持ち悪いですね」

プラグは言った。ルネが褒める――滅多に無い事だ。たぶん、観客がいるからだろう。


ルネは苦笑し。その後、大きく笑った。初めて見る満足げな表情だった。

「よし。一旦、終わり! 皆、彼に拍手を!」

ルネの言葉に、候補生達が盛大な拍手をしてくれた。

「はあ」

拍手を受けながら、プラグは首を傾げた。今のどこに拍手の要因があったのか……稽古終わりだから、と言う感じだろうか。

「さて」

ルネは剣を収め、候補生達に向き直った。プラグも剣を収め、ルネの一歩後ろに控えた。


「人間じゃねぇ……」「プラグまじ化け物」「全然、捌きが読めない……」「嘘でしょ……」

と言う溜息が聞こえて、ルネが苦笑した。


「このプラグ君が強いのは、どの構えもきちんと修得しているからだね。馬鹿みたいな記憶力で、思いつく限りの、技の組み合わせを頭に入れてるんだ。これって実は難しい事で、体で覚えていった方が、本当は効率がいい。まあ、彼も覚えてるだけじゃなくて、ぱぱっと無意識に使ってしまうけどね。型を知っていると動きの予測が付きやすいんだ。ここからこの動きはできる、これはできない。って。相手に合わせて、この人はこう来るかな? って思ってのんびり戦ってそう。だから彼はその場の勘で動くタイプは苦手なはずだよ。シオウ君とか、隊長とかも」

そこで切って、ルネは口の端を上げて、まだ続けた。


「でも『型通りが得意』って見せかけるのが、彼の嫌なところだね。彼は良く中段で構えてくるけど、それはフリだから。恐いのは下段で構えている時。そこからどんな攻撃にもあっさり転じる。飛び上がったりとか、上段や大振りは、君達と戦う時はあまり使ってないと思うけど、実は大得意。これは気を付けないと一撃で狩られる。あと切っ先を下げて後ろに引いた構えしている時は、本当に危ない。ちょっと、たまにやる下段の引き構えを見せて。小さい方の」


プラグは仕方無く、再び剣を抜き、言われた通りに構えた。

切っ先を地面に向け、右足を軽く引く。


「この構え、ストラヴェルでも一般的な物だけど、プラグ君の場合は足の引きがだいぶ小さい。これだと動きにくくて、威力が出にくい筈なんだけど、彼は二つ目の動きで力を乗せてくる。これは彼の特徴なんだけど、最初は受ける事が多いね。受け身の、まろやかな印象があると思う。のんびりすぎて、ゆっくりに見えるくらいだ」

ルネが説明する。――どうやらプラグの使う剣について説明するらしい。

検討は上達の近道なので、とてもまともな授業だ。

すると紅茶髪のフォンデが「でもそれで、ずばっとやられるんだよ……!」と嘆いた。

「どうやったら勝てますかー!」「一発入れたい!」「もっと負けろー!」「ホント嫌い!」と皆が口々に文句を言う。

ルネが苦笑した。

「そうだねー。普通、ストラヴェルの剣術はこういう攻め方をしない。もっと気合いを入れて飛びかかるんだ。先手が有利。相手を殺さなければいけない時、悠長に待っているのは良くない、って考えだ。これは彼に教えた師匠が、相当強かったんだろうね。だから余裕綽々な雰囲気を受け継いでしまった……とか? まあ、当てずっぽうだけど。エメリンも同じような事を言ってたから。前の師匠は誰?」

「黙秘します」

プラグはそっぽを向いた。

「あれ。拗ねた?」

「だって、どうせ変だって言うんでしょう」

プラグは頰を膨らませた。ペイトに『ホント嫌い!』と言われて少し傷付いた。

するとルネが呆れた顔で腹を抱えて笑った。


「黙秘されちゃったから、話を戻そうか。構えの事だけど。あ、もう一回、引き構えやって?」

プラグは言われたとおりに、先程と同じ構えを取った。

するとルネが隣で同じ構えを取った。切っ先を地面に向け、右足を一歩分引く。

「僕はこれくらいかな。プラグの構えの小ささが分かるよね」


「プラグと戦う子は、このちょっとの型の違いに戸惑うと思う。基本的に相手に動きが読めないように、常に小さな構えをしているから。これは凄く動きにくいから、あんまり真似はしない方がいいかな。僕もやりたくない」

そう言えばルネはしっかり構えを取る方だ。プラグはどちらも使うのだが、どちらがルネに効果的かはまだ検討中だ。


「貴方は……どちらがいいと思いますか?」

プラグは尋ねた。

するとルネが、また見たことの無い顔で、眉を上げた。面白がっている、と言うのだろうか?


「おや――そうだね、どっちっていうのは? どういう意味かな」

「俺は構えは大きい方、小さい方、どちらでも無い方。全部使いますが、貴方が苦手と思う方は? 俺に向いている方とか、他にも気付いた事があれば教えて下さい」

プラグは言った。大分不満だ。

ルネは今まで、こうやって親切な説明をプラグにした事が無かったのだ。

……そう言えば聞いていなかった気もするが、聞く暇も与えられないのだ。ひたすら打ち込み、が普通だった。

ルネがまた見た事の無い表情をする。子供っぽいと言うのだろうか? まるで楽しんでいるような。無邪気な笑顔だ。

「うーん。プラグ君は僕に勝とうとしたら、そうだね。どちらも未完成だけど、大きい構えで来た方が、僕は困るかな。ただ君も分かっていると思うけど、それには少し力が足りない」

プラグは深く頷いた。

「確かに」

「でも多分、君はそんなに力が付かない方だと思う。でも、やっぱり、今後を考えると大きな構えを極めて行った方がいい。成長すれば力はともかく、背は伸びるだろうし。そこになるべく力と勢いを乗せる。そして隙を減らしていく。僕と似た剣になるかもしれないけれど、そこは諦めて。力を乗せる方法は何とか工夫して一緒に考えていこう。霊力が余ってるから、そちらでなんとかできるかも。君本来の剣術にもその方が合っていると思うんだけど、どうかな。参考にする?」

プラグは頭の中で動きを考えた。

ルネの動きを参考にしつつ、理想の動きを思い描く。更に鋭く、速く。強く。

……悪く無い気がする。

プラグとしても、本来の剣は大ぶりが多い。

元々、ラ=サミルの剣がそうだったのだ。

力の限界があるプラグが、まだ強くなれるのか。

今の所分からないが、ルネとなら何か方法が見つかる気がした。


「確かに、大きな敵が相手なら、その方がいいかもしれないですね」

ルネが大振りを勧めるのは、もしかしたら魔霊を想定しているのかもしれない。

プラグの考えは合っていた様子だ。

ルネは僅かに口の端を上げてこちらを睨むような。挑発的な表情をした。

……やはりどことなく楽しそうに見える。

「うん、そうだね。人相手とは限らないから。もう少ししたら魔霊対策の剣も覚えていく事になるね。あ、これは全員だけど。君はやる気はある?」

ルネがプラグに聞いてきた。

プラグは頷いた。

「はい。やってみたいと思います。何とか、魔霊や貴方に使えるくらいに」


あまりルネに似るのは嫌なのだが、結局、似ているのだろう。

――似るのは嫌だと思っていたが、諦める時が来たのかもしれない。


ルネが頷いた。

「君の剣はとても分かりにくいけど、僕には分かるから。頑張って極めて行こう。いつか僕を倒したら、その時は聖なる剣の使い手――『剣聖』とでも名乗ったら?」

ルネの言葉に、プラグは奇妙な心地を得た。


……急に認められた? 何で褒めるのだろう、と言う戸惑いだ。

だが、もしかすると……ルネも戸惑って、プラグを認められなかったのかもしれない。

三倍訓練が始まった当初、ルネの剣にはかなりの憎しみと苛立ちが籠もっていた。

しかしそれも徐々に、和らいできたように思える。

色々あったし、お互いに慣れて来た、と言う事かもしれない。

プラグは少し微笑んだ。


「それは微妙なのでやめておきます。……ありがとうございます、先生」

プラグは言って、頭を下げた。

「そこは師匠(ししょう)で。弟子は一人じゃなくてもいいから、もっと皆、気軽に来て欲しいな。公爵とかもう良いから、ざっくりと、ルネ、って気軽に呼んで欲しいな、皆もよろしくね」

ルネがゆったりと微笑んだ。優雅な笑みだった。


「さ、僕と訓練をやりたい人、手を上げてー」

「はい!」「はいっ!」「やりたいです!」

ルネの言葉に、次々と手が上がる。候補生達の目は輝いている。

プラグは何なのだろう、と思いながら、ルネの後ろ姿を眺めていた。

するとリズがプラグの背中を小突いた。


「おめー、やったな」

リズは限りなくニヤニヤしている。

「……?」

「まあ、いい、後で説明してやる。じゃあ、お前はちょっと休憩。――お前等ー、今日はルネ公爵の臨時授業だ! これからもたーっぷりあると思うが、まあ、折角だから受けとけ! あ、こいつ、借りてくな」

リズはプラグの首根っこを引っ張って、候補生達から離れた。


■ ■ ■


プラグはそのまま、薔薇の館、一階、玄関入って真正面にある食堂に連れて来られた。

近衛騎士達もついてきていて、公爵夫人となったリリ・カトン改め、リリ・ラ・エアリ侯爵夫人が、相変わらずのメイド姿で紅茶を煎れている。プラグと目が合って、互いに微笑んだ。


食堂には長いテーブルがあって、真っ白なテーブルクロスが敷かれていて、正面には暖炉がある。

左右に十五席ずつあり、テーブルの上には真っ赤な薔薇が生けられた花瓶が五つ。

右の列、一番奥にプラグ、プラグの左隣にリズ。


長居するつもりは無いのか、お忍びだからか、皆、マントのままで座っている。

近衛の制服は青色に金の縁取り、赤いマントという派手な物だ。儀式用の服ではない、平服のようだがそれでも目立つ。皆、騎士なので帯剣している。腰掛けるときは帯剣したまま腰掛けた。背筋を伸ばし、浅く座っている。


左の列、先頭……プラグの向かいには、一番若い、茶髪の青年が座っている。年齢はせいぜい二十代後半で、短い茶髪の巻き毛に、赤い目だが、真面目で大人しそうな印象がある。

赤い目と言ってもリリの目より少し色が暗いので、派手な印象はあまりない。少し変わっているな、くらいだ。


青年の右隣、には見知らぬ中年の近衛が二人いる。

一人目は跳ね上がった髭を持つ、六十歳くらいの近衛兵。

黒髪黒目だが、髪や髭は若干、白髪交じりだ。顔立は濃いめの美形。体も厚みがあって、かなり強そうだ。階級章は見えないが、いかめしく、貫禄がある。


二人目は、もう少し若く五十代後半の近衛兵で、金髪に褐色の目で、前髪は七三分け。きっちりした髪と対照的な、金色の太眉毛が印象的だ。まるで杉の枝を貼り付けたような……彼も体格は良い。


――後は顔見知りのクエンティンと、ランドルが端にいた。

クエンティン・ル・オーラスは四十過ぎで、短く刈り込んだ真っ赤な髪が印象的な、引き締まった体躯の近衛兵だ。身分は伯爵。

ランドル・ル・エルムは五セリチほどの長さで切りそろえた金髪に、茶色の目を持つ、体格の良い青年だ。彼はエスタード領出身で、クエンティンの部下だ。

プラグはこの二人とは遠乗りの時に出会って、以来、会えば話す間柄だ。


つまり一番若い青年がプラグの前、一番奥の席に座って、その次に髭の人、眉毛の人、そしてクエンティン、ランドルの順になる。


「いやー、明日は大嵐だな、アレン」

リズの言葉に『アレン』と呼ばれた青年が頷いた。

「ええ、本当に驚きました」

「こいつ、そういうトコあんだよな……ちょっと馬鹿っぽいのがいいのかもしれねぇ」

リズが苦笑する。

プラグは首を傾げた。

「どういう事です?」

そもそもどう言う状況なのかよく分からない。近衛が集まっているのは分かるのだが。

彼等はここに何をしに来たのだろう?


「まー。お前を持ち上げる訳じゃねぇが。ルネはあんま、稽古とか付けたがらないどころか、手合わせもあんまりしない。検討なんて絶対しない。でも結婚したせいか、気が変わったらしい。あいつは面倒臭い性格だが、やると決めたらやる奴だからな。候補生は大儲けだ。アレン、これは近衛にも使えるぞ。頼めば行ってくれると思う」

リズの言葉に、アレン? が大きく頷いた。

「はい。あの方の事ですから、おそらく考えてはいたと思います。でもきっかけが無かったんでしょう。そういう、理由を求めるところがありますから。それも踏まえて、決めましょう」

「それはそうだな。――じゃあ始めるか『話し合い』を」

リズが紅茶を口にした。


「まずは自己紹介から?」

アレン、が言った。

「ああ、お前から順に」

リズが頷いた。


「では。初めまして、近衛騎士団団長、アレン・ル・フォーガスです」

プラグは目を丸くした。

……アレン。確かに、近衛の騎士団長はアレンという名前だった。しかし――年齢はもっと上だと思っていた。息子……ではなさそうだが……。


「ちなみにアレンは若く見えるが、五十二歳だ。精霊の血が濃い奴だな。全然、見えねぇだろ?」

と、リズが補足した。実年齢を聞いてプラグは驚いた。

どう見てもやはり二十代……せいぜい後半だ。

「五十二歳……!? はあ……全く見えないです。そうなんですね」

「よく言われます」

アレンが苦笑した。

プラグは以後、黙ったままアレンを見ていた。


するとリズがにやついて。

「あ、プラグ、お前、普通に喋って良いぞ。遠慮はなしで」

と言ったのが、プラグは戸惑うだけだった。そもそも何の用か分からない。


「そしてこちらは……。――皆、自己紹介を」

アレンが隣の、明らかに年上に見える二人に言った。

まずアレンのすぐ隣にいた、髭の男性が頷いた。

「はい。私は近衛騎士団、第一連隊、隊長。バーク・カレルナ・ゼ・ハイング・ラヴェルです。宜しくお願いいたします」

「私は近衛騎士団、第二連隊、隊長。サンラス・ラ・マーヤです。以後、よろしくお願い致します」


役職を聞いてプラグは絶句した。

サンラスは金髪に褐色の目、七三分けの中年男性で……プラグは彼の太い眉毛が気になっていたのだが、そんな事が頭から吹っ飛ぶくらいの衝撃だった。


「お二人は近衛騎士団の、副団長ですか……!?」

プラグは眼前の二人を交互に見た。

「はい。連れて来ました」

答えたのはアレンだった。

アレン・ル・フォーガスは近衛騎士団の団長だが、彼は全軍の総代で、直下の部隊を持っているわけでは無い。

勿論、アレンの指示は絶対だが、普段、各部隊に指示を出しているのは副団長の二人になる。

近衛騎士団は五大隊あり、一、二、三、四、五でそれぞれに『大隊長』がいる。

つまり『五人の大隊長』がいるのだが……。


ざっくりと分けると。

第一大隊は王族警護。

第二大隊は城の警備。

第三大隊は街の警備など。

第四大隊は事務専門。

第五大隊は捜査専門となる。


今いる二人は、各部隊の大隊長を二人ずつまとめる『連隊長』と言う役職になり、この『連隊長』が『近衛騎士団の副団長』と言われる。

ちなみに捜査専門の第五部隊は独立していて、連隊には組み込まれない。


第一連隊、隊長。バーク・カレルナ・ゼ・ハイング・ラヴェル。

第一、第二大隊をまとめる、第一副団長。名前の通り王族だ。

――いかめしい感じの美形。黒髪に若干、白髪交じりの髭の人。とても貫禄がある。


第二連隊、隊長。サンラス・ラ・マーヤ侯爵。

第三、第四大隊をまとめる、第二副団長。

――金髪に褐色の目で、まず眉毛に目が行く。


……要するにものすごく偉い方々だ。

アレンもそうだが、こんな所に来て良い人物ではない。


副団長二人の顔には『どうしてこんなことに……』と書いてある。

二人とも、特に王族のバークは肩を落としている。嘆きが聞こえて来そうだ。


するとアレンが、口を開いた。

「プラグ・カルタさん、先日は候補生のレイン・サルザット達が失礼しました。実は私と、こちらの二人は……どちらも副団長なのですが、あの場にいました。黒いローブの集団です。貴方の祝詞の辺りからですが、あの事件を目撃しています」


プラグははっとした。

小石の妖精、ル=ラナ=ホタルが近衛候補生のレイン・サルザットに投げつけられて、一度死んでしまった事件。

視察の黒ローブは確かに複数人がいたが……まさか中身が近衛騎士団長と、副団長二人だったとは。


(この国はどうなっているんだ!?)

プラグは内心で悲鳴を上げた。

国王と王子の視察とは言え、何故、団長と副団長二人があの場にいたのか。

しかも目撃されていたとは……。

さすがにプラグは頭を抑えて唸った。

「……見ていらしたのですか? しかもあの場にいて? いったいなぜ……?」

「……こちらにも色々、事情がありまして……本当に偶然です」

アレンも唸り気味に言った。

そんな恐ろしい偶然があるのかと、プラグは更に唸った。


「改めまして、申し訳ありませんでした。近衛騎士団団長として、近衛騎士団として正式に謝罪致します」

アレンはあっさり頭を下げてしまい、続けて、横の副団長二人と、クエンティン、ランドルも頭を下げた。

プラグはさすがに、どうしたら良いか分からなくなった。


相手は雲の上……騎士団長、副団長、王族、貴族達だ。

顔を上げてください、と言える身分でもないし、お気になさらずと言うのも何か違う。

「あの、ゼラトには……? もう謝りましたか……?」

プラグは尋ねた。するとアレンが真面目な顔で頷いた。

「実はゼラトさんには先程、謝罪をして参りました。ここに来る前です」

「そうなんですか……」

頭を下げられ、ゼラトはさぞ驚いただろう。

「はい。我々は、先日の一件を、非常に重く受け止めています。もし私と副団長二人が居合わせなかったら、王子殿下の采配によりあの不祥事は十年間、誰にも知られる事は無かったのですから。我々が居合わせたのは、王子殿下の采配、いえ、ご配慮かもしれません……王子殿下は、予言の力をお持ちなのです」

アレンの言葉に、プラグはとりあえず合わせる事にした。

「そうなのですか……?」

王子が予言者、と言う事はアルスに聞いて知っているが、一旦知らない事にした。

アレンが頷いた。

「ええ。ところで、レイン・サルザットですが。王子殿下にお言葉を頂き、感銘をうけたようで……すっかり、面白くなりまして……」

アレンが苦笑する。


「できれば、直接会って、貴方にお礼がしたい、と話しています」

「お礼……」

「ええ。つまり、えーと、リズ隊長?」

アレンがリズを窺った。

プラグの隣ではリズが頬杖を突いて、溜息を吐いている。

「おめー、そんなんじゃ日が暮れるぞ。本題に入れ。本題! 何をどうして欲しいんだ!」

「あ、はい。つきましては、これからする提案に、できれば頷いて頂きたく……」

「あー! なんじゃそれ! 分かりにくい! 回りくどい!」

「えーっと、はい、えー……」

アレンは戸惑ってリズを見た。

リズは盛大に溜息を吐いた。

「お前、私の所に来た時の勢いはどうした。そんなんだから、舐められるんだよ。お前五十二歳だろ?」

「はい、そうですけど……。分かりました。はっきり言います。プラグさんにお願いがあります。これは貴方がいいと言ったら、計画を動かします。近衛候補生としばらく『宿舎交換』をして頂けませんか?」


■ ■ ■


「宿舎交換?」

アレンの言葉に、プラグは呆気にとられた。

アレンが頷いた。

「はい。私達は、近衛候補生を貴族だからと言って甘やかし過ぎました。五年前、リズ隊長が就任した際、大規模な人事異動がありました。その時に、もっと良く騎士採用過程や、現在の人員構成など、全て見直すべきだったのです。今後、役に立たない、タダの飯食らいは馘首します」

アレンははっきり言って続ける。


「……ただし、候補生はまだ若い。成長により、強くなる可能性もある。現近衛兵や引退した兵士もそれぞれが必要な役割を担っている。ですが、本っ当に無駄が多い! 既に国王陛下の許可を得て、組織改革を始めています」


アレンは、近衛騎士団――特に候補生達の抱える問題を赤裸々に語った。

――五年前の、クロスティア騎士団再編の影響を受け、血統主義が蔓延していること。

――年齢、身分による差別が横行していること。

――差別どころか、制裁やイジメも日常茶飯事。

――候補生によっては、元クロスティア隊士の言う事を聞かないし、先輩や教師に刃向かって、あげくの果てに一般人にも舐めた態度を取る者がいる。


「守るべき相手に対して牙を剥く。この現状はまずい。むしろ、もう手遅れです。リズ隊長の就任から、いえ、私が騎士団長になってから五年、何もしなかったせいで招いた惨状です。しかし私は貴方とレイン・サルザットを見て思いました。変えるなら今しかないと!」


アレンが拳を握って、プラグを真っ直ぐ見た。


「という訳で、プラグさんには一ヶ月、いえ一週間程度でも構いませんから、一時的に、近衛の宿舎に泊まって欲しいのです。もちろん、貴方だけでは無く、第一陣として、貴方と、貴族出身者――シオウさんとゼラトさんを招きます! そして、入れ替えに、空いた貴方がたのベッドに主犯格の近衛候補生を入れます! つまり寝床の交換です。訓練は少し遠くなりますが、十分通える範囲だと思います。座学については、貴方と、後はシオウさんの許可が出れば、近衛の学校でも受けて頂きます。もちろん、貴方がたにも得はあります。一つ、決まってるのは『領主試験』についてです。これは、本来、近衛候補生のみが受けられる物ですが、これを精霊騎士課程の、全ての候補生にも受験可能に致します。試験勉強については、卒業後も三年、無料で受講可能にします。そのほか、希望やこうして欲しい、などあれば何でも、とにかく何でも言う通りにします! どうか貴方と、貴方がたの力を貸して下さい!」


アレンは――凄い勢いで言い切った。

プラグはすごく変わった人だな、と思った。


「ぜひ、お願いします! ほら、君達も頭を下げて! ほら!」

アレンの言葉と手振りに一同が頭を下げる。


リズがやれやれ、と首を振った。

「あと、全員コテンパンに自信が無くなるくらい、伸して欲しいそうだ。だな? これが一番だろ」

リズがアレンを見た。

「ええ、お願いします! エアリ侯爵と貴方の手合わせを見て分かりました。貴方は間違いなく私より強い。つまり、今いる近衛兵は相手になりません。候補生、いっそ近衛も全て倒して、思い知らせてやってください! これはエアリ侯爵では駄目です。貴方の十四歳という若さが必要なんです! あとシオウさんも、他の皆さんも一緒に、あの生意気なガキ共を叩いて下さい、合同訓練もありますから、そこで全員、ぼこぼこにしてください! 大量脱退も大歓迎です!」


アレンの言葉にプラグはあっけにとられた。

ストラヴェルの近衛騎士団長は、見た目は普通だが、相当変わっていると思う。

弱腰で過激派……こんな人物もいるのだ。


リズがやれやれ、と首を振った。

「つーわけだ、お前と腹を割って話さねぇと、もうやべぇーって泣きついてきてな。――何でも、その事件のレイン・サルザットってやつが、すっかり改心して、お前とゼラトに会いたがってるんだと。で、近衛も普通は平民とか捨て子とか問題外、みたいな感じなんだが。今回は興味を持ってるからいけるだろうって。もし何かあってもそいつが絶対に、こっちの味方してくれるから空気は悪く無いはずだとよ。まずは試しに、ゼラトも貴族だから第一陣で向こうに行く。あとシオウもつけときゃ何とかなるだろ。ま、行くなら、近衛の贅沢ぶりを肌で感じて、あれこれ文句を付けてこい」


アレンはついに立ち上がった。

「はい。ぜひお願いします! とりあえず、初回は貴方とゼラト君、あとはシオウ君の三人で試します。ぜひとも、王女殿下やアドニス殿下と同室にして、そいつらを戸惑わせてやりたいんです! 本物の高貴さとは何か。下らないお家自慢の愚かさを思い知らせてやりますよ!! 良ければ、貴方は明日からお願いします!」


プラグは、頷くほか無かった。

「分かりました……行きます」

「ありがとうございます! よし、君達、早速準備だ! 行け! 走って!」

アレンの指示で、副団長二人がはっきり『何でこんなことに……』という顔をして立ち上がった。

クエンティンとランドルも苦笑しつつ、立ち上がって出て行った。


■ ■ ■


リズはそのまま、プラグと共に庭に戻り、候補生達に近衛の現状と決まった事を説明した。


「という訳で、近衛候補生が駄目駄目だって言うから、寝床を交換する。名付けて『お泊まり会』! まずはお前等の中から、貴族が行くんだが、そもそもできるか分からないから、まずは今の所の首席、プラグが真っ先に犠牲になってくれる。感謝しろよ! 後は何故か指名されて、ゼラト。顔が可愛いし、貴族だからいけるって感じで。後はシオウもついでに、威嚇役ってことで。舐められんなよ! アドニスは今回は受け入れ係だな。で、それで何とかいけそうだったら、貴族、平民と交換を広げていく。――つーわけで、お前等、変な貴族が来るかもしれないが、気にせず仲良くしろよ! 飯が不味いって言われたら、あの手この手で食わせていい! 風呂が汚いって言われたら、引きずって連れって、中にドボンだ! 分かったか?」


リズの説明に、候補生達が「はーい!」と返事をした。


「ちなみに、『貴族学校』は風呂も飯もここより豪華だからな。楽しみにしとけ。一応、貴族の振る舞いやテーブルマナーも勉強できるってことで、その辺の講習は向こうでもやる事になった。ダンスもだな。ついでに領主試験も受けられるし、領主試験の授業は三年タダ! 卒業後も通えるってよ! やーったな! 折角だから全員受けとけ! 得したな! あ、女子はとりあえず、男子が上手く行ってからだそうだ。今後は女性貴族にも採用拡大したいから、意見が欲しいと言われている。その時が来たら贅沢して来いよ――後はアルスとアドニス。お前らの部屋に二人ずつ近衛候補生が入る。せいぜい、恐がらせてやれ。身分大事の連中、絶対真っ青になるぞ! いやー、楽しみすぎる!」


リズがにやにやと笑った。

……候補生達も全員、同じ表情だ。

身分大事の貴族達――しかし、さらに上の身分のアルスやアドニスがいたら? しかも同室。きっと眠るどころではないだろう。

プラグも思わず笑ってしまった。鍵があるからこそできる荒療治だ。


「あ、あと、近衛は年上もいるが気にすんな。こっちでは名字を名乗るのは禁止になってるから、名前で呼んでやれ。一応さん付けでも、まあ呼び捨てでも何でもいい」


「はーい!」

プラグもついに、大乗り気で返事した。返事の中にはバウル教授も混じっている。

バウル教授は王族だから。風呂で会ったら驚くだろう。

――正直言って、ものすごく楽しそうだ。

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