第10話 プラグと男子達 -2/2-
(あ~! やっぱり駄目だった!)
シオウとプラグが席を立った後、フィニーは内心、頭を抱えた。
「じゃ、俺も抜ける。お前等『それ』何とかしろよ」
二人が店を出るまでフィニーは、一応、静かにしていた。
「え……おい!」
ゼラトが席を立って、追おうとしたのをフィニーは止めた。
「ゼラト! ごめん、そのままでいい。皆、ちょっと話、聞いてくれる?」
フィニーの右斜め前にはオクターがいる。
「オクター、ゴメンね下手をうっちゃった。プラグと戦うのは諦めて、俺で我慢してくれない?」
「……」
オクターは明らかに、表情を――雰囲気を変えている。というか、目つきががらりと変わった。
「アドニスとはさ、俺に勝てたら、でいいよね?」
フィニーは立ち上がった。
オクターが舌打ちして、席を立つ。フィニーも立って、席の無い場所に来た。
「皆は下がってて」
「ふん。どうせ駄目だと思ってたぜ」
オクターの言葉に、フィニーは苦笑し、ナイフを抜いた。
「俺も無理があるなって思ってた――あーあ、折角、仲良くなるチャンスだったのに……」
オクターを見据えて構えながら、フィニーは苛々していた。
オクターも、短剣を抜き、授業と違う、堂に入った構えをしている。授業では手を抜いていたのだ。
それでも。プラグには遠く及ばない。
オクターが先に腕を伸ばし、と思ったら間合いに入り込んできた。
二人の距離は二メルトはあったが、一足動いただけであっと言う間だ。フィニーは腕を取って極めようとしたがすり抜けられ、足払いを掛けられた。予測できた事なので飛んで躱して、逆にナイフを握ったままの右拳をお見舞いした。顔面に当てる、しかし腕で防がれている。
「俺、めっちゃ、気が立ってんの」
「……」
「生かしておくから、それはありがたく思って」
フィニーはオクターの、顔を防いだ左腕をひねりあげて胴体に拳を入れた。しかし、固い。
――風呂場でも怪しいなと思っていた。
でも、ばれるような密偵なんて三流じゃないのか。
ナイフで下段から刺し貫こうとしたのを、フィニーは柄で払った。
次々に攻撃して来るので、下がりながら避けた。上からの振り降ろしの一撃を、両手をクロスして止め、そのまま少し身を沈め、反対側に投げ飛ばした。
「弱すぎ。なんで取れるような攻撃するの? わかんないんだけど?」
オクターは受け身を取って起き上がる。まだ余裕があるようで、体を低くして、ナイフを構え直した。野生の、獣のような雰囲気の構え方だった。
一歩が大きく、早く、気付くと間合いを詰められている。何度も斬りつけられてその度にナイフで弾いた。合間に刺突を入れてくるのだが――それより。
フィニーは舌打ちして横に避けた。左手で何かを飛ばしてきた。柱に刺さったのは指くらいの長さの、細い針のような物で、幸い誰も当たらずに済んだ。
「皆、外に!」
と言った時、外から新しい『客』が五名、入って来た。フィニーはこれにも苛々した。
――取り引きの内容は聞いていたけど、守る気なんてやっぱりない。
どうせ捕まれば処刑なので、守っても仕方無いのだが。ただオクターは少々不愉快そうに眉を顰めた。知らなかったのかもしれない。
「こちらは僕達が!」「ごめんお願い!」
アドニスが請け負ってくれたので、フィニーは頷いた。
「よっくわかんねーけど、とりあえず倒す!」
ゼラトがよく分からないままナイフを抜いた。他の面子も同じく構える。
あっと言う間に混戦になり、椅子が飛んだり、机が倒れたりしたが、フィニーはオクターの動きに注意していた。次々に針が飛んで来ると言うか、投げてくる。どこに持っているのか分からない。当たったら不味そうだというのは分かる。
フィニーが避けた所に五本、綺麗に並んで刺さった。何かの発射機のような物で、打ち出しているのだろうか? それだけではなく、一本ずつ来る時もある。僅かに霊力を感じるが、プレートでは無い。
フィニーの後ろ三メルトで壁、間に倒れた机と椅子がある。
――野蛮、粗雑、乱暴、下卑――フィニーの大嫌いな物だ。
そんな事より、プラグにどうやって謝る? 許してくれるだろうか? それとももう無理だろうか。
フィニーは針を避けながら、机の後ろに一瞬入った。
あまりに腹が立つので、そこにあった椅子を机の横から投げ飛ばした。当たらないが、怒っていると言う意志表示だ。
そのまま別の椅子を投げ飛ばし、自分は机の横から出て、オクターの腰に掴みかかった。ちょうど違う方向を見ていたので容易く出来た。
引き倒し――やはり精霊石を持っていた――。落ちて来た椅子を掴んで、オクターの顔面を、何度も強打した。腕で防御されるが構わない。
初めオクターは反撃の機会を窺っていたが、フィニーは足蹴も加えた。防御の隙間から耳を踏みつけ、次は鎖骨を折る。ナイフは手を思いっきり踏みつけて取り上げてしまう。後は組み伏せて、とりあえず習ったとおりに締め上げる。
やがてオクターは気絶した。
フィニーは溜息を吐いた。とりあえず、オクターのベルトを引き抜いて後ろ手に縛ってみる。
「こんなもんかな。捕縛って、上手くできないや。縄とかってある?」
フィニーはアドニスに尋ねた。その時には他の『客』も片付いていた。アドニスは縄を使って、『客』をまとめ縛り付けている。綺麗な結び方は見習いたいと思った。
「あ。これどうぞ。終わったら、厨房に報せたら良いそうです」
老夫婦は厨房に引っ込んでいる。フィニーは暖簾をめくった。
「なんだそうなの? 旦那さん、お姉さん、終わりました。ごめんなさい、お店の代金もつけといて!」
フィニーは言って、急いで外に出たが――外には勿論、誰もいない。
プラグは勿論、シオウもいるわけが無く、静かな裏通りがあるだけだ。
「ぁあああもう、あのクソ――××××野郎共め! ――あっと、刺客の事だよ!」
フィニーは道ばたで盛大に悪態を吐いた。
■ ■ ■
買い物が終わった後、プラグとシオウはそのまま宿舎に戻った。
坂道を登ると――宿舎の門が見えてくる。
「さー、一人くらい、死んでるか?」
シオウが半笑いで言った。
「縁起でもない。まあ一人くらいは死んでしまったかも。悪いことをした」
プラグは縁起でもない冗談を言った。
「お前、結構、性格アレだよな……」
「俺は怒っても良いと思う。約束を破られたんだから……。そうだシオウ、いいお仕置き、何か無いか?」
「ん? お仕置き?」
「重大な契約違反だから、抗議の方法を考えてるんだけど、思いつかなくて」
「はぁ? そんなん、ぶっ飛ばして、次やったら殺すぞ、でいいんじゃね? っていうか許すのか? もうちょっと、厳しくいけよ。あ。よくわからないけどさ……」
――シオウが可愛い子ぶったので、プラグは苦笑した。
「リズが素直にぶっ飛ばされてくれるか……? あと、それじゃちょっと弱い」
「あ。じゃあさ、俺が代わりにやるぜ? 楽しそう」
シオウが笑顔で手を挙げた。
「んー? シオウにできるのか? 相手が悪くないか?」
「色々、方法はあるぜ。まああいつ強いから、勿体ないか、――あ、そうだ。コル=ナーダに頼んで、この宿舎、丸ごと焼き払って貰おうぜ! それがいい!」
シオウが目を輝かせて言った。
プラグはその手があったか、と思った。お仕置きは何も人相手でなくても良いのだ。
目を輝かせて、思わず手を叩いた。
「! そうだな。それがいい! ちょっとやり過ぎな感もあるけど、それくらいしてもいい。頼めるか? あ、でも宿舎だと、人が死んでしまうから、執務室のある辺りだけで。人がいないか確認しろよ? あそこって機密情報とか、大事な物はあるのかな」
「そんなの、置いとく方が悪い、ここに入れりゃいいだろ」
シオウは自分の頭を数回、指で叩いた。
「確かにそうだが。後々文句を言われてもな。いっそ予告したほうがいいのかな?」
プラグの言葉に、シオウが少し考えた。
「ああ、それもありだな。しっかし、慌てるところを見て楽しむとか。お前良い性格してるな~! 俺、そう言う奴、大好きだぜ! はははッ! ――まあ、もう、リーオに言って、それからやればいいだろ」
「何から何まで、すまないな。何かお礼ができればいいんだけど……」
プラグが言うと、シオウは軽く手を振った。
「ああ、まあいいぜ、俺、一度試してみたかったんだ。コル=ナーダの火力を。よーっし! アホのプラグの為に、ここは一つ、俺様がやってやろう! あ、でも一応、貸し一つだぞ? そのうち返せよな?」
頼もしい言葉に、プラグは笑顔になった。
「そうか、助かる。そのうちクッキーでも返す」
「クッキー!? 安っ」
「そのくらいだろ。じゃあ、プレートを返してもらった後、俺から説明するから、やってくれ。俺は人がいないか、あと大事な物が無いか、リーオと一緒に確認する」
プラグの言葉にシオウが大きく頷き、手を挙げた。
「――よっし、決まりだな!」
「ああ!」
プラグも満面の笑みを浮かべて、シオウとがっちり手を組んだ。
■ ■ ■
コル=ナーダの火炎は執務室を包み込み、執務棟全体を燃やし尽くした。
プラグはリーオに説明して、手紙で連絡を受けた隊士達が、大慌てで需要書類を運び出したので、被害は何も無い。
――時刻は夜。
リーオの『説得』と書類の運び出しに思いの外、時間が掛かってしまった。無事に戻って来たフィニー達を含めた、候補生達は宿舎の裏手に避難している。
つまり誰も見ていない。古い建物が燃えただけだ。
「あはははは! 燃えろ燃えろーーーーー!!」
「キャハハハハハハ! たーのしいーーーーーーー! サイコーーーー!!」
シオウとコル=ナーダは生き生きとしている。
「ああ、良く燃えてるな……コル、大分力が強くなったな。成長期だからか、それとも一度魔霊になったせいかな?」
プラグは少し離れてにこやかに眺めていた。大広間への延焼を食い止めるため、そちらにはラ=ヴィア、ナダ=エルタを含む水の精霊達が待機している。
しばらくすれば、執務棟は跡形も無く消えるだろう。リズもちょうど不在だと言うし、なんだか良い仕事をした気分だ。
リーオはプラグの側で頭を抱えている。
「まあ人間ですから、間違える事もあります。精霊だって間違えますから。今回はお茶目な感じだったから、大目に見ますから。隊長に良く、言っておいていただけるとー……、助かるんですが……?」
「……言っておく……今回は、すまなかったな」
リーオが溜息を吐いた。彼は、リズを止めたのだと散々説明した。
――彼もリズに振り回され、とても辛い立場なのだろう。
「良かった、ありがとうございます。すみません、燃やしちゃって……シオウ、そろそろやめろよー」
「えー! 何言ってんだ!? 足りないだろ! もっともっともっと燃やす! 全て跡形も無く! もうちょっとあっちも! 森もいいだろぉー!?」
「おおっシオクズいいじゃん! そのノリ! そうねぇ――セセセスって言ってくれたらやってやるけど? わかったアホ?」
するとシオウはあっさり土下座した。
「やってください、コル=ナーダ様! ルフィーラディアセセセセセス!」
「ふふん、しょうがないなぁ――!! えーい!」
「ああ、こら、コル、森は駄目だって――」
プラグは声を張り上げた。
■ ■ ■
フィニー達は、オクターを倒して捕縛した後、近衛に引き渡して戻って来た。
プレートを持っていなかったのが幸いだった。フィニーが取り上げた精霊石も近衛に預けた。
本気を出したオクターはまあまあ強かったが、思ったより大分弱かった。
あれがプラグなら、体に触れさせる事なく――フィニーが倒れていただろう。
だいたい、フィニーはお綺麗な長剣より、泥臭い、格闘や接近戦が得意だと、一緒に学んでいて気付かなかったのか?
帰り道、フィニーはずっと泣いていた。
フィニーは今日、できればプラグと仲良くなりたかったのに……はっきり言って大失敗だ。
予定では、プラグとオクターに宿舎で安全に決闘してもらい、その後で安全に捕まえるはずだった。
事情を聞いた同期は慰めてくれて、ゼラトは一緒に謝ってやると力強く言ってくれたが、フィニーはずっと落ち込んでいた。
……しかし、これは一体、何が起きているのだろう。
宿舎の向こうから、もうもうと火の手が、煙が上がっている。
夕食の後で、リゼラとコリントに、今日はちょっとした余興をするから、湖に集まれと言われて、皆で移動した。
『ええと、たき火のようなもの、って聞いてるけど……?』
とリゼラに言われたので、皆は何だろう、どんな事かな、楽しみだな、と思って移動した。
候補生達はみな、膝を抱えて座っている。待機命令が出ているので、ひたすら「すげー」と言いながら見学だ。そのうち、気分が高揚してきて「歌でも歌うか?」と誰かが言い出し、一部で国歌斉唱が始まった。
「派手なたき火ですね~~……ストラヴェルは凄いや……」
アドニスは呆然と眺めている。
一方のフィニーは、戻ったらプラグにどう謝ったらいいかと、本当に悩んで、落ち込んでいたのだが……色々吹き飛んでしまった。
「うん……ここでは、いらなくなった建物を、こうやって処分するんだね……豪快だなぁ……」
そう呟くほか無い。フィニーは一瞬『近衛に行けば良かったな?』と思った。
フィニーがリズに言われたのは……プラグをオクターと戦わせる事ができたら、評価をぐんと上げてやる、と言う事だった。決行日を今日に指定され、どうすればいいのか考えに考えた。誰か手伝って貰ってもいいと言われていたのでアドニスの知恵を借りた。アドニスは、仲間を騙すのは、評価のためとはいえ断った方がいいのでは、と言っていたが、自分を狙った刺客だからと渋々付き合ってくれた。
「アドニス……俺、馬鹿だったな……なんか……間違ってた気がする……」
フィニーは適当に濁したのだが。
「そうですね、よく反省して下さい。プラグ君にも謝るんですよ。あと君は、もう少し、他人を大切にして下さい。あなたと同じように皆、生きていて、感情があるんです。貴方の放蕩で本当に傷付き、悲しんだ女性もいたでしょう。火遊びは程々に。病気をもらったら大変ですよ」
アドニスはしっかりと余計な事まで言ってきたが……。
フィニーは初めて、叱ってくれる存在のありがたさを痛感した。
「ありがとう……なんか、俺、そうだな……誰かに、叱って欲しかったのかも……誰も何も言わないし……庶子だからって……ちょっといじけてた……」
フィニーはアドニスに、打ち明ける事にした。
「俺、実は兄さんがいたんだけど。四年前に殉職しちゃってさ……俺が跡取りなんだけど、うち、霊力が強すぎて、あんまり子供ができないんだ。女の人の卵子? だっけ、それを殺しちゃうんだって。母さんが早く死んだのは悪い病気のせいだけどさ……母さんは、娼婦だったから……俺、小さい頃、娼館にいて……この見た目だから、ちょっと客引きとかもしててさ……それで名家の跡取りなんて……もし、好きな人と結婚して、その人との子供が出来なかったら、その人が可愛そうだろ? だから、大勢と遊んで、子供ができたら、その人を盛大に迎えよう、それまでいっぱい、花街にお金を落とそう、って思ってたんだけど……間違ってた? あと、姉さんは凄い巫女だし……俺がいっぱい頑張らなきゃって……」
するとアドニスが、そうだったんですね……、と言った後、優しく微笑んだ。
「家名は大切ですが、愛の方が大事だと思いませんか? ……今のご両親も、きっと、あなたを愛しているはずです。大丈夫です。今からでも、貴方は変われます。根が優しい人なのは、皆、分かってますよ。一緒に、頑張りましょう」
アドニスの言葉に、フィニーは感激して、感涙した。
特に『変われる』『優しい』と言う言葉は、胸にじんと来た。
「……ありがとう……! 俺、もう、遊ぶのはやめる……!! ちょっとだけやめる! うん、変わる! 今日から変わる!」
アドニスがフィニーを見て微笑んだ。
「遊び方にも色々あります。肉体関係は無くても、健全な交流ならいいのではないでしょうか。家を継げば、恵まれない女性達の支援も出来るでしょう。その上で、一番好きになれる、お互い想いあえる、可愛いお嫁さんを見つければいいんです」
フィニーは、そんな考え方があったのか、と思った。
そして思い出した。
「でも、花街の人達、お金、受け取ってくれないんだ。ちゃんと仕事してるって、矜持ががあるんだよ。母さんも結局、家に来ないかって父さんの誘いを断ったし……。気持ちはちょっと分かるけど……」
フィニーも『可愛そうだから、ただでお金をあげる』と言われたら怒るだろう。
……タダで欲しい人にはタダであげたが、後で返しに来る人もいた。多大な感謝は嬉しかったが、何かが違う、という感じがあった。
フィニーの言葉に、アドニスが苦笑する。
「手を差し伸べる、施しをする、支援するというのは難しいです。たくさん学んで、それでも答えが分からない。だけど、多くの人の手を借りて、学んで、分かるときもある。もし、フィニー君が、そういう支援ができる人になれたら、それは、とっても素敵な事じゃ無いですか?」
アドニスの言葉に、フィニーは何度も頷いた。
「……! うん、そうだね、うん……!」
――求めていた答えが目の前に来た、という感じだった。
兄の代わりに、近衛に入って精霊騎士になって、と言う話もあったが、フィニーは釈然としなかった。
『騎士』という生き方に、全く興味が持てなかったのだ。
近衛の兄は好きだったので、その手伝いくらいならしてもいいと思って、勉強と鍛練だけは頑張っていた。
ところが兄は、母と同じくあっさり死んでしまった。フィニーは自暴自棄になり……どうせ死ぬなら子供くらいは残して死にたいと思って、金を使いまくって、遊びまくった。
そこで『姉』に、手紙で勧められたのが……クロスティア騎士団の騎士課程に入る事だった。誘われた、と言っても良い。
『一年、平民のような暮らしをすれば、たくさん友達ができると言いますよ。首都にはたくさん、遊ぶ所もありますし。そのつもりでおいでなさいな』
これが決め手だったのだ。
全部分かった上での、姉の優しさに、今更、泣きそうになっている。
「うん、そうする。プラグとシオウ君はどこかな……? 見当たらないけど、プラグは氷の精霊持ってるから、消火してるのかな。凄いなぁ。頼りにされて……。俺の事嫌いになったかな……騙して、悪いことした……」
フィニーは膝を抱えて涙きべそをかいた。
……フィニーは水一族の精霊、トアゼ=エルタを持っているが呼ばれない。
プラグの事は、皆が凄い凄い格好いい、と言っているから、だいぶ羨ましいと思っていた。嫉妬していたのかもしれない。フィニーも凄いし、強いのだが、あまり『愛されて』いなかった。
けれど今なら分かる――フィニーはもらった愛を返していなかったのだ。
いや。本当はずっと分かっていた。フィニーは両親を好きだし、姉も好きだし、兄も大好きだった。
……フィニーは、きっとプラグに兄のような温かさと厳しさを、求めていたのだ。
悪い事をしたら、殴ってでも、叱ってくれたのは兄だけだったから、風呂場でプラグが間髪入れずにシオウを殴ったのを見て感動したのだ。
目から涙があふれてくる。
「アドニス……もう、俺、嫌われたよね……うっ……仲良くしたかったのに……俺、男の友達、一人もいないんだ……!」
フィニーは泣きながら、嘆いた。フィニーの生まれは卑しいどころか、底辺なのだ。母は初めは贅沢な暮らしをしていたらしいが……体を壊し、捨てられ、道端で体を売っていた。母が病気で死んだ後、フィニーは母がかつていたという娼館の門を叩いた。男友達なんているわけがない。
「彼は……賢い人ですから……謝れば許してくれますよ……」
国歌が響く中、アドニスは全てを悟ったような顔で、炎を見つめていた。
■ ■ ■
「ごめん、本当にごめん! 俺、反省した! 心入れ替える! すごい精霊騎士になって、皆にすごいねって言われたい!! 本当の母さんにも褒められたい! だから頑張る!! 駄目な所があったら、遠慮なく言って! 君の嫌がる事は絶対にしないから!」
翌朝、プラグはフィニーとゼラト達に、並んで謝られた。
フィニーの隣にはアドニスもいて、フィニーに付き添う格好だが、アドニスも真面目に頭を下げてきた。
「僕も、本当にごめんなさい。大変、申し訳無い事をしました……!」
皆が何事かと見ているのでプラグは焦った。
シオウは『昨日は楽しかったな~』という顔で頬杖をつき鼻歌を歌っている。
「えっと……? 用事があっただけだから……気にしないで……」
森が少し焼けてしまって、プラグも少し反省していた。今度はもっとしっかりやろう。
それはそうと、フィニーの心変わりは嬉しい。リズの荒療治は多大な効果があったようだ。
プラグは口の端を上げた。
「フィニーは、アドニスもだけど、三倍でもいいんじゃないか? ゼラト達も二倍とか? ――あいつ、強かっただろ?」
プラグの言葉に、真っ先に頷いたのはゼラトだった。
「ああ。でもフィニーの敵じゃなかったぜ! びっくりした。こいつ、本当に凄いよ」
続いて、オードがフィニーの頭をくしゃくしゃにして褒めた。
「そうそう、強かった! つかヤバかった! お前、ただの遊び人じゃなかったんだな!」
「わ、髪が~! こら!」
フィニーは嬉しそうに笑っている。アドニスも笑った。
「フィニー君は凄いです。僕もうかうかしれいられません。あと、貴方も。お互いに、彼に負けないように」
「そうだな」
油断できない相手ができてしまった。
――アドニスはシオウにも目線を向けている。
「シオウ君にも負けませんよ」
するとシオウが、珍しくアドニスを見た。
「……ふーん? ま、せいぜい励めー、なんてな」
シオウは不敵な笑みを浮かべ、それきり、また頬杖に戻った。
「おら、ご希望のエマだ! またここでお前等と勉強するから、一年頑張れよ!」
そこでいきなりリズが入って来て、少々やけくそで、エマを食堂の床に降ろした。
皆が一斉にそちらを向いた。
運ばれてきたエマは目を白黒させている。
「えっ?」
「エマ!?」
「エマ……!」
「うそ、エマ!?」
真っ先にバーバラが立ち上がって、駆け寄って抱きしめて、リルカや女子達、男子達もエマを囲んだ。
「エマ……! 良かったぁあ、心配したのよ!!」
バーバラが号泣している他、女子達は皆、泣いている。男子も幾人かもらい泣きをしているようだ。
「ああ、うん……えっと、えーっと、あ、手紙、ありがと……途中で読んだわ……腰が痛いけど……」
エマの言葉に、バーバラとリルカが感激した。
「読んでくれたの……!?」
エマが、しっかりと頷いた。
「私……迷ってたんだけど、やっぱり頑張ることにした。最下位かもしれないけど、勉強する。お母さんにも言ってきた。首都でお仕事するって。もし就職できたら、呼びたいの」
バーバラが泣きながら、更にエマを抱きしめた。
「そうね! ……ぜんぶ、お話聞かせて!」
「うん、正直、色々あって何が何だか……、でも、あのさ、一個良い? 外の建物、あれ、どうしたの?」
エマの言葉に、微妙な空気が流れた。
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