第21話

奈良を見下ろす、はるか上空。


光と闇が生み出す閃光が交差し、空間が揺れていた。 猛り狂う力と力の激突——


俺たちと、闇の帝王・闇一郎の力は拮抗し、決着はつかなかった。


焦りと戸惑いに、俺は思わず叫ぶ。


「くそ……どうすれば、どうすれば……!」


そんな俺の肩に、静かに手が置かれた。 振り向けば、アルシアが優しく、けれどまっすぐに俺を見つめていた。


「総一郎、あなたはやさしいから……人を斬れないのね」


その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。


「でも、あれは——」


アルシアは静かに瞳を細めた。


「闇一郎は、蛇行剣が創り出した写し……人の心を持たないモノだわ」


俺は、必死に問いかけた。


「じゃあ、どうしたらいいんだ……?」


アルシアはすっと、弓を引くように構えながら言った。


「楼蘭人は遊牧の民。弓の扱いにも長けていたわ。……私も、心得がある」


「離れた場所から……射抜きましょう」


その確かな声に、俺は強く頷いた。


「アルシア、手伝ってくれるか?」


アルシアは微笑んだ。


「もちろんです、総一郎」


彼女は俺の手を取り、優しく包み込む。


「……すべてを、終わらせましょう」


俺とアルシアの心の力が完全に重なり合った瞬間、七支刀が天の光を孕み、極大の一矢を放った。


光の矢が生むのは、一閃の刺突。 空すら裂くその力は、まさしく“希望の極”だった。


「お願い……当たって!」


それを正面から迎え撃つ、闇一郎。


「……ヌルいわ!」


蛇行剣を振り抜き、軌道を逸らそうと構える——


だが、その刹那。


「……っ!」


魔アルシアが、その身を闇一郎に重ねるように正面から抱きしめた。


「何をする!? アルシア……離せ、この人形がっ!」


闇一郎の叫びが響く。 だが、その声は、どこか悲鳴めいていた。


魔アルシアは、一言も発さない。 ただ——その表情には、ほんのりと浮かぶ慈愛の微笑み。


その顔は、俺のそばにいるアルシアそのものだった。


「……やめろ……やめろぉぉぉ……ッ!!」


光が、彼らごと空間を貫いた。


俺たちの魂の一撃が、全てを打ち砕いた瞬間だった。


「バカな……バカな……バカな……バカなぁああああああああ!!!」


闇一郎の叫びが虚空に消え、肉体が塵となって崩れ落ちる。 蛇行剣も砕け、跡形もなく散っていった。


「そうか、俺にアルシアがいるのは、たぶんこの時のためだったんだな。」


「総一郎、魔アルシアも本当はあなたと心を通わせたかったの。 私にはわかる」


俺たちはそっと抱き合い、お互いに涙を流した。 消えたもう一人の自分を想って。


***


宇宙空間——残されたのは——肉体を失った“何か”。


ヒヒイロカネと酷似した、だが異なる、 **存在するのに見えない“核”**だけ。


それは、“光”の裏側にある“闇”そのものだった。


俺とアルシアは、ヒヒイロカネの片割れ——砕かれた蛇行剣の“核”を慎重に回収し、ゆっくりと奈良の地へと降下していった。


地上が近づくにつれ、戦いの熱気は静寂へと変わり、どこか懐かしい夏の匂いが鼻をくすぐった。


――それは、ようやく“帰ってきた”という感覚だった。


結月と明日香。 彼女たちは闇一郎の消滅と同時に力を喪い、その場で意識を失っていた。


けれど、彼女たちは救われた。


命を賭して戦った未来戦士たちにより、その身は奈良の地へと無事に運ばれてきたのだった。


そして、ツバキたちの眼前には、もう一つの奇跡が広がっていた。


空を覆っていた無数の埴輪兵たちが、闇一郎の支配を失い——重力に引かれるようにして次々と落下していく。


ズドンッ! ズズズッ……ドシャアア……


鈍い音を立てながら地に墜ちたそれらは、もはや兵器ではなかった。


闇一郎の力という“魂からの動力”を失ったその姿は、ただの素焼きの土器。


バリィン……ッ!


地面に当たった瞬間、まるで儚い夢のように砕け散っていく。


それは、帝国の終焉を告げる破片だった。


静まり返った奈良の空に、夕陽がゆっくりと沈んでいく。


俺は隣のアルシアの手を、少しだけ強く握った。


「……終わったな」


「ええ。でも……始まるのよ。これから」


彼女の横顔は、どこまでも穏やかだった。


——俺たちの物語は、まだ続いていく。

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