第20話
風が止み、時が凍った—— そして、火蓋が落とされた。
ツバキの声が、戦場の空気を切り裂く。
「——埴輪兵は任せろ! 空の的なんざ、バンバン落とす!!」
雷鳴のような号令と共に、彼女の高周波弾が炸裂した。
放たれるたび、宙を舞う埴輪兵が吹き飛び、瓦の破片のように落下していく。
一方、結月の前に立ちはだかったのは、ヒバナだった。
「結月ちゃん、ごめんっ!」 「これでも、まだ抑え目だから!」
赤いスーツが発光し、光学兵器の増大したエネルギーの集中が臨界を超える。
「高出力ビーム、発射っ!!」
光が収束し、すべてを貫く一閃となって放たれた——!
だが。
「遅いよ、そんなの……!」
結月は微笑みすら浮かべながら、煌めく楯のような理力のバリアを張った。 轟音と共に炸裂する光の嵐。
だが彼女は一歩も引かない。 美しい笑顔のまま、そこに立っていた。
——そして。
「明日香ちゃんっ! こっちよ! 貴女の相手は——わたしだよ!」
クリスが声を揃え、身体を光に変えて高速飛行へ移る。 そのまま西の空へと一直線に飛翔し、逃走ではなく誘導の態勢に入った。
刹那、明日香の剣が唸る。
「逃がしません……!」
羽ばたくような一歩。 次の瞬間には、彼女の姿もまた光と化し、二人を追っていた。
——空、海、地。
それぞれの戦場が裂け、動き出す。
そして中央。 俺とアルシア、闇一郎と魔アルシアが睨み合った。
「さあ、来い。運命の“俺”よ——!」
闇一郎の唇が吊り上がった。
* * *
「うわあああああああ!! マジ無理マジ無理ぃ!!」
青の戦士クリス、全力で逃走中である。
その背後、剣を携えた殺意MAXの美少女・明日香が、まるで死神のように無言で迫る。
「あの子、完全に殺る気よね!? このままじゃ、たぶんマジで“死ぬ”!!」
その時、クリスのブレスレットが小さく点滅した。
「——転移可能範囲、確保!」
「来た! ツバキ、お願い!!」
一瞬の閃光がクリスを包み込む。 空間がねじれ、光が走る。
——次の瞬間、彼女は瀬戸大橋上空へワープしていた。
「た、助かった……」
だが——
バシュッ!!
「助かってませんッ!!」
明日香も、まるで影のように後を追ってきた。
ツバキの支援は、敵ヒヒイロカネの力で互角に押し返されているらしい。
空中に張られた念動力の平台に立つ明日香が、静かに構えを取る。
「柳生新陰流奥義——兜割り!!!」
天と地を割るような、純粋な“力”の一撃
。
斜め上から叩き落とされる一太刀は、光速を錯覚させるほどの速度だった。
「無理無理無理無理無理ッ!!」
クリスは命からがら、ギリギリでその一撃を回避する。
しかし——
「……下……!!」
振り返ったその瞬間。
ドォンッ!!
明日香の太刀筋が、瀬戸大橋を真っ二つに斬り裂いていた。
橋桁が瓦解し、コンクリートと鉄骨が、まるで紙細工のように砕けていく。
「……わ、わわわわ、今……“とんでもないもの”を見たよぉ……明日香ちゃん、マジでやばい……チートすぎる……!!」
それでも、明日香はなおも踏み込んできた。
「次は——避けさせません」
——空を裂き、地を砕き、その刃が再び、宙を翔けた。
* * *
「ヒバナ、出力最大!」
「もうやってる! これ以上無理ってくらい燃やしてる!!」
ヒバナの高出力ビームが空間を灼き尽くす。
だが——結月の周囲を包む淡いバリアは、微動だにしなかった。
彼女は、無言のまま宙に浮かび、ぼんやりと微笑んでいる。
「……やっぱ駄目か」
ヒバナが唇を噛んだ。
その時だった。
「っ……!? 後ろ——!」
ツバキの声に、ヒバナが振り返る。
結月の背後に、いつの間にか漆黒の埴輪兵が数体、静かに出現していた。
その形はどこか歪で、通常の埴輪兵とは異なる異様な“禍々しさ”を纏っていた。
「見たことないタイプ……いや、違う……!」
ツバキの瞳が震える。
「あれは……自爆型埴輪兵よ!」
「ッハァ!? 冗談だろ、高周波術式弾も効かない対レジスタンス特化型の!?」
ヒバナが思わず声を荒げた。
その黒い埴輪たちは、まるでロウソクの芯のように頭部が淡く発光している。
発光が強まるほど、爆発が近い——未来の戦場で散々見てきた、悪夢の兆候だった。
「攻撃が止んだら、あれが突っ込んでくる」
「笑えないってレベルじゃないわよ、マジで てかあたし達、瞬時にミンチコースじゃね!? 」
「っ……くそ、間に合って……!!」
目の前に立つ結月は、相変わらず儚げに微笑んだままだった。
だがその足元に控える爆弾兵器たちは、まるで“彼女の感情そのもの”が形を持ったように、静かに、確実に死を運ぼうとしている。
* * *
舞台はもはや大気圏すら超えかけた、天空の果て。
超能力が空間を震わせ、まるで宇宙そのものが呼吸しているかのようだった。
俺——長屋総一郎と、アルシア。 対するは闇一郎——俺の写し身、そして偽りの寵姫・もう一人の魔アルシア。
七支刀と蛇行剣が幾度もぶつかり、白と黒の閃光が天を裂く。
二人のアルシアは、それぞれの“総一郎”に向けて、エネルギー増幅と回復の波動を送り続けていた。
波動の質はまったく違った。
俺のアルシアの力は、優しさと想いが込められた温かな光
。
偽アルシアのそれは、冷たく、精密で、まるで機械のように完璧すぎた。
——そして、奴が笑った。
「ハハハ、楽しいなぁ総一郎……。ああ、そうだ。いいことを教えてやろう」
七支刀と蛇行剣が火花を散らすその瞬間、奴は、あえて言葉を選ぶようにして——残酷な“揺さぶり”を投げてきた。
「この数日、俺は毎晩アルシアを楽しんだぞ? 最高の悦楽だった……ふふ、お前のアルシアも、すぐに俺がもらってやるさ」
刹那、俺の視界が赤く染まりかけた。
けれど——
「総一郎、聞いちゃ駄目!」
アルシアの声が、闇を貫いた。
「これは戦術。あなたの心を揺らすための嘘よ! 闇一郎はきっと余裕なんてないの。追い詰められてるからこそ、そんな卑劣な真似をするんだわ!」
俺は拳を握り、剣を握り直す。
「……ああ、なんとなくわかる。あの写しは、俺の“好きなアルシア”じゃない」
その時——
俺の脳裏に、ヒヒイロカネの重々しい声が響いた。
『そのとおりだ、総一郎……。 正に魂が欠けておるのじゃ』
魂のないものに、本当の愛はない。 魂のないものに、共に歩む未来などない。
この瞬間、俺の迷いは完全に断ち切られた。
「行くぞ、アルシア!」
「はい、総一郎!」
二人の力が完全に同調したとき、七支刀が光り、俺の身体が真の“帝釈天(天帝Ver)”へと進化する。
——そして、決戦は真なる最高潮へと突入していく!
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