第13話

翌日、発掘現場はアルシアに任せて、俺は再び県警に出頭する。


署の入口で明日香に出迎えられ、取調室へと通された。


担当刑事がファイルをめくりながら、開口一番に言う。


「長屋さん、あのデカいの、どこにやったの?」


「……え?」


担当刑事の目が鋭くなる。


「消えたんだよ! あのデカいの。保管してた県警の倉庫をぶち壊してさ。今、器物損壊と行方不明で大騒ぎだ」


言葉に詰まる俺。説明のしようがない。だって、あれ——勝手に動いたんだよ?


***


少し前。


未来戦士たちは、いつものファミレスで分析会議中だった。


ただし、クリスは不在。奈良県警の倉庫で“例のアレ”を監視している。


(※張り付き担当はじゃんけんで決めた。クリスは3連敗した。)


ファミレスの一角、タブレットを開いたツバキが口を開く。


「埴輪兵について、みんなの意見を聞かせて」


「一機なら問題ねえが、今この時代に何機あるかが問題だ」


「クスクス……まだ量産はされてないと思うけどねぇ。今の段階なら」(リモート中)


「数で来られたら面倒だよな。 埴輪って、一体一体が異様に頑丈だし」


そして——県警近くの倉庫。


クリスは、仮設の監視ブースから涙目で無線・未来式を飛ばしていた。


「笑えないなぁ。 ずっと張り付いてるの私だけだよぉ〜〜!」


その背後では、埴輪兵がじっと無言でこちらを見つめていた。


やがて、目に赤い光が灯ると、ずがががが~ん!と壁をぶち壊し外へ出ていく。


「……逃げました。空を飛んで」


クリスからの通信が入ったとき、ブゥーっと全員が飲み物を吹き出す。


「飛んだ? ……誰が?」


「埴輪兵よっ……奈良県警の倉庫をぶち破って、そのまま、ふわって……!」


「現時点で既に飛行機能があるなんて……設計したの誰よ。マジで狂ってる」


「逃走した方向は?」


「三輪三山の方角……」


一瞬、空気が静止した。


——三輪三山。伝承の地。


記録によれば、未来において「長屋総一郎が完全覚醒を果たした」とされる場所。


「まさか……もう?」


「でもタイミングは……不明。覚醒が始まったのか、それともただの偶然か」


ツバキは腕を組んだまま、黙り込んでいた。考えろ。どう動くべきか。まだ覚醒前だ。間に合うはずだ。


「ツバキ、どうするの?」


「……わからない」


「こんなはずじゃなかった。作戦はもっと前のはずだった。でも……もう、崩れ始めてる」


「飛ぶ埴輪が現れて、覚醒の地に向かってる。それだけでも充分、計画が破綻しかけてるわ」


「……ねえ。 もし、もう彼が“そっち側”に片足突っ込んでたら……?」


沈黙が広がった。


「まだ……信じよう」


「彼は、まだ“総一郎”のままだって……信じて、動こう」


未来戦士たちは、それぞれの思いを胸に、ゆっくりと顔を上げた。


希望は、まだ消えていない。


——その希望に、賭けるしかないのだ。

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