第2話

【第2章:冒険者ギルドと最初の選択】


 ――神殿の裏手。トレイナークが去ったあと、傭兵団〈フレイムガード〉の団員たちが団長ファングに声をかけた。


「団長~、トレイのやつ本当に行かせてよかったんですか? ユニークジョブ持ちって、洗礼直後が一番死にやすいって、団長が一番よく知ってるじゃないですか」


「あぁん? いいんだよ。あいつが選んだ道だ」


「でもよ~団長……」


「うるせえ! 次の仕事が決まってんだ、街を出る準備をしやがれ!」


「うへい!」


 団員たちは慌てて神殿を後にする。


 その様子を見届けた神官長が、ふっと笑みを浮かべて言った。


「ファング、あの少年はあなたと同じ眼をしていました。強くなりそうです」


「神官長、今日は感謝します。あいつは俺よりも強くなる。あの年で、“強さの意味”を理解してる」


「ふふ……あの悪ガキだったファングが、慈しむような顔を見せるなんてね。そろそろ、孤児だけでなく自分の子どもの一人くらい、見せに来なさいよ」


「だぁー! やめてくれ神官長! おれを未だにからかうのはあんただけですよ!」


「たとえ大陸に名の知れた“紅蓮の魔法使い”になっても、私の中ではいつまでも悪ガキファングですよ」


「ケッ、もう行くぜ。また顔出すから、それまでくたばるなよ」


 ファングは軽く手を振り、神殿を後にした。


 一方、トレイナークは冒険者ギルドを目指して歩いていた。革袋の中では、銀貨5枚、半銀貨8枚、銅貨7枚、半銅貨9枚が小さく鳴っている。日本円にして約58,790円ほど。決して大金ではないが、当面の活動資金には十分だった。


 一般的に戦闘職の人間は、護衛や魔物討伐、戦争参加など仕事の幅が広い傭兵ギルドへ入る。だが、トレイナークが選んだ〈修練者〉というジョブにとって、それは本領を活かせる場ではなかった。


 冒険者ギルド――そこはダンジョンに挑む者たちの集まる場所。だが、その評価は決して高くない。

 ダンジョン内で倒された魔物は煙となって消え、一定確率でドロップ品を残す仕組み。その確率は個人差も大きく、運が悪ければ一銭も稼げない日もある。装備や消耗品を考えれば赤字になることすら珍しくない。


 だからこそ、冒険者ギルドに入る者は“夢想家”と揶揄され、バカにされることさえある。


 そんな話を思い出しながら歩いていると、目的地にたどり着いた。


 冒険者ギルド。扉を開けた瞬間、室内の空気がわずかに変わった。子どもが一人で来たことに、驚きと冷ややかな視線が集まる。


 受付嬢が一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。


「登録には名前、年齢、ジョブ、あと簡単な能力の証明をお願いしてるわ。でも――天下の傭兵団〈フレイムガード〉の見習い様なら、証明は不要ね。10歳で冒険者を選ぶなんて、勇気があるのね」


(……ただの勇気じゃない。必要な選択だ)


 登録手続きを終え、ギルドカードを手にしたトレイナークは、ギルドの隅にある静かな個室へと向かった。誰にも邪魔されない場所。


 彼は心の中で、呟く。


(ステータス表示)


【ステータス】

名前:トレイナーク

ジョブ:修練者(ユニークジョブ)

レベル:1

SP:50

能力値:

・体力 :G-

・力  :G-

・頑丈 :G-

・俊敏 :G-

・知力 :G-

・心力 :G-

スキル:なし(SPで獲得可能)

《スキル選択可能》


「よし……金に困らないスキル。あのゲームにも、たしか……あった」


 ウィンドウを操作し、SPを15ポイント消費して、スキルをひとつ選択する。


《スキル獲得》

スキル名:【確定ドロップ・銅】

効果:魔物を討伐した際、ドロップとは別に必ず“銅貨”が手に入る

SP消費:15


「これで……最低限、食いっぱぐれはなくなる」


 資金を安定させられれば、あとは戦い、成長するだけだ。

 自らの意思と知識で選び取った、最初の力。

 10歳の少年の、冒険が始まった。

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