第9話 ノッジャのじゃノジャノジャ〜♪ ノジャジャ〜♪ ノジャ〜♪

「おーい!」


 新たな友情に噛み締めていると、誰かが私達を呼ぶ声が聞こえてきた。


 声がした方を見ると、モブ美とクロッピーが駆けてきた。


「モブ美〜!」


 すると、さっきまで瀕死寸前だった彼女が急に元気を取り戻して、彼女に抱きついてきたのだ。


「きゃあ!」


 彼女は突然の事で驚き戸惑っていたが、すぐに「もう、無茶しちゃ駄目って言ったでしょ」と頭を撫でていた。


「モブ美〜! すまんのじゃ〜!」


 ノジャは涙声で彼女に謝っていた。


 二人の関係性も気になるが、それよりもスタンプラリーがまだ終わっていない事に気づいた。


「は、早く残りの校舎のスタンプを押さないと!」


 私は立ち上がって、実験棟から近い校舎に行こうとしたら、モブ美に呼び止められた。


 そして、一枚の紙を渡された。


 それはスタンプラリーの紙で、全部埋まっていた。


「モブ美ちゃん……これは?」

「スバルちゃんとノジャが戦っている間、他の校舎のスタンプを押しておいたの」


 それにと続けて、彼女はチケットを私とノジャに手渡した。


「それは食堂のランチが無料で食べれる券だよ。スタンプラリーを全部制覇したら貰えたんだ〜!」


 おぉ、何と気の利く子だろう。


 私達の事を考えて、この子は馬鹿に広い学校を歩き回ってきたんだ。


 よく見ると、顔や首から汗が出ている。


「モブ美ちゃん、ありがとう!」


 私は彼女にお礼を言うと、モブ美は「当たり前の事をしただけだよ」と照れていた。


「スバル〜?」


 何か視線が痛い。


 振り返ると、ノジャが殺気だったオーラを放ちながら私を睨んでいた。


 が、モブ美に「もう戦うのはやめて!」と頬を膨らませたので、彼女はすぐに元に戻った。


 どこからともなく夕焼小焼の音色が流れた。


 と、同時に私のお腹が鳴った。


 モブ美は可愛く笑うと、「食堂に行こう! まだ空いているはずだよ!」と言って歩き出した。


 ノジャも「何食べようかのう」と鼻歌を歌っていた。


「でも、食堂って営業しているの?」


 私が聞くと、モブ美は「うん! 20時まで食べれるよ」と答えた。


「でも、そしたら家に帰るのが遅くなるんじゃない?」


 すると、ノジャとモブ美が首を傾げた。


「あれ? この学校の生徒は全員寮に泊まるって、学校の説明会で言われなかったっけ?」


 モブ美がキョトンとした様子で私を見てきたので、私は「あぁ! そうだった!」と笑って誤魔化した。


 モブ美は「そっか」と言って、ノジャと話をじながら歩いて行く。


 私はホッと息をつくと、クロッピーに「ちょっと! 全然聞いてないんだけど!」と耳打した。


 が、クロッピーはすました顔をして「大丈夫! ちゃんと転生する前に入寮する手続きはしておいたから」と言って歩いていった。


 おぉ、何ということなんだ。


 まさか寮に入るなんて。


 道理で、学校に行く時、魔王のパパが大号泣しながら『いってらっしゃい』を見送ったのは、これが原因なのか。


 まぁ、いいや。前世では、同級生と一緒に暮らすなんて事をしてこなかったから、楽しみではある。


 さて、そうこうしていると、ノジャに「どうした〜? 早く来るのじゃ〜!」と呼ばれてしまった。


「今行く〜!」


 私は大声で返事すると、ダッシュで二人のもとに駆け寄った。


 だが、しかし、私達の周りがこれほどかというぐらい眩しい光に包まれてしまった。


「こ、これはまずいのじゃ!」


 ノジャが何かを察したのか、モブ美をヒョイと抱えるとポーンと天高く放り投げてしまった。


「えええええ?!」


 モブ美も驚いたような叫び声を上げたまま消えてしまった。


「あんなに飛ばして大丈夫なの?」「あぁ、問題ないぞ。寮がある方に飛ばしたからのう」


 いやいや、偉そうに『やってやったぜ』みたいな顔をしているけど、あの子身体能力平均だから、あんなに投げられたら、着地した時に即死だぞ。


 だが、ノジャは私の心を見抜いたのか、「心配するでない。落下しても傷一つつかない魔法をかけてあるから問題なしなのじゃ!」とドヤ顔をしていた。


 まぁ、それだったらいいんだけど。


 すると、光がさらに強くなっていき、目を開けてられないほどになった。


「よくぞ、お越し下さいました。勇者様!」


 何だろう。誰かの声が聞こえてくる。


 目を開けてみよう。


 そしたら、ローブを着た子が目の前にいた。


 耳は尖っていて、金髪で、緑色の瞳――何だろう。この既視感は。


「何なんじゃ、ここは」


 聞き覚えのある声がしたので、隣を見る。


 そこには、ノジャがキョロキョロと辺りを見渡していた。


 なるほど。彼女もやってきたんだな。


 ノジャは目の前にいる人物に眉間にシワを寄せた。


「お主、何者じゃ」


 また威圧的なオーラを出していたが、ローブの子は一ミリも怯んでいる様子は見られず、堂々とした口調で話し出した。


「はいっ! 申し遅れました。私は召喚者の……」「召喚者?」


 彼女が完璧に名前を言う前に自己紹介を終わらされてしまった。


 が、彼女は全く気にする様子はなかった。


「はいっ! あなた方には、この世界で一番恐ろしい魔王を倒していただきたいのです!」


 彼女が満面の笑顔でそう言うと、コンパスを渡してきた。


「こちらは、魔王がいる所を示す魔法の方位磁石です! これさえあれば、迷いなく進めます!」


 彼女が笑顔でそう言う。


 あぁ、ついにこの時が来たんだ。


 私が望んでいる異世界にやってきたんだ。


 しみじみとそう感じていると、さっきまでウロウロしていたノジャが窓の方にむけて、口からビームを出した。


 それは窓を突き抜け、まっすぐとある方向へと向けられた。


 そして、遠くの方で大爆発を起こした。


 召喚者は開いた口が塞がらない様子だった。


「な、何をしたんですか?」「魔王がいる所を丸ごと消し炭にしたのじゃ。こうすれば、もう魔王を倒しに長い旅に出ずにすむのじゃろ?」


 おぉ、何という事だ。


 彼女は異世界物で重要な冒険を一瞬で終わらせてしまったのだ。


「なぁ、もう目的は達成しただろ。早く元の世界に帰させておくれ」


 ノジャがそう言うと、召喚者は「ちょ、ちょっと待って! まだ全滅したとは……」とモニターみたいなのを出して、調べていた。


 すると、本当だったのか、「嘘でしょ」と呟いていた。


「どうじゃ? 嘘偽りはなかろう」


 ノジャが勝ち誇った顔で彼女に言う。


 召喚者は見るからにガッカリした顔をして、「ハイ。オツカレサマデシタ」とカタコトのように言った。


 すると、今度は割りと早めに視界を奪われてしまった。


 目を開けると、元の場所に立っていた。


 おぉ、本当に戻ってきたんだな。


「さぁ、行くぞい」


 ノジャがスキップしながら歩いて行く。


 私は彼女が改めて恐ろしい存在である事を身を持って知った。


 その後、モブ美と合流して、ご飯を食べるのだが、その食事があまりにも美味しくなさすぎて、ノジャがブチ切れて食堂が崩壊した事は、また別の話。

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