八 疵物
「幼い頃だった。兄も、姉も、両親もが壊れた
「壊れているのは己ではない者たちなのに、彼らは、その
脈打つような重い沈黙を刹那に置いた後、息を吸う。
「僕を壊せ、完膚なきまで――と」
まるで呪いのような
「だが、それを云うからには既に壊れていると判じた両親は、彼を
露に色づく緑葉に焦がれた
漆黒の
◇
「
薄れた
夜霧は燻んだ単衣を引き摺り「姫様!」と号ぶ。
「早く薬を。私は治癒を確認したら、行くから」
夜霧は震える手で匙を手に取り、さねの口許に寄せる。はらりと落とせば粉雪は融け、
「……ひめ、さま?」
朔月に陽光が差すかの如く、
「姫様、私、
「怯えることはないわ。誰かが患ったのなら、私は構わず薬を調るもの」
喚きだすさねに蓉子はたじろぐ。
蓉子は、調薬と採集、及び診療に長けているが、ひとの心に触れることに関しては、非常に
(
触診に怯えて甲高い声で哭く稚児など、飽きるほどいる。大概の母親は激昂し呶鳴り、少々の愚痴を医相手に零すわけだが、その
それが蓉子である。理知で問い詰めるのである。
蓉子が手も脚も出ず、その場で突っ立っていると、夜霧がさねの黒髪を撫ぜ、円い手を包む。
(……夜霧は、慈愛に満ち溢れている)
氷雪の如き
ゆえに、妣に疎まれ蔑まれてきた蓉子を、護り育てることが出来たのだ。
御陰様で蓉子はみかけの情は薄いが、魄は白熱している。
(私は、慰めにもなれないわ)
苦から放たれた楽に安堵する侍女たちを後目に、蓉子は廻廊を通り宵へ駈った。
「ま、俟って、姫様!」
さねの
「……どうか、私の話をさせてください」
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