42 あまりに遅すぎた

#まえがき

ここで朝陽視点は終了です。このあと、夕雨視点に戻り、完結に向かいます。


#本文

母がふと、視線を落とす。


「でも、お父さんも私も、きっと偶然じゃなかったんだろうなって思ってた。あの子は、あなたに会いたかったんだと思う。ただそれだけで」


朝陽はもう、何も言えなかった。


押し殺してきた感情が、音を立てて崩れていく。


偶然のふりをして、そばにいてくれていた。


何も責めず、何も求めず、ただ。


ただ、ずっと。


心の奥に沈んでいた何かが、涙と一緒にゆっくりと溶けていった。



朝陽は、手紙を一枚、また一枚と読んでいった。

夕雨の想いが、言葉の隙間からあふれ出してくる。


「俺……なんで……」


ようやく漏れた声に、答えはなかった。

ただ静かに涙が頬をつたい、初めて心の奥底にあった感情があふれ出した。


もう一度会いたい。


その気持ちは、今度こそ嘘じゃなかった。


でも今更、どんな顔をして彼女に向き合えばいいのか。


何かを取り戻すには、あまりに遅すぎた。

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