18.おかしな夢①
いつからそうだったか定かじゃないけど、
いつも以上に疲れたような顔をしていて、時々ぼーっとしていることもある。
宗馬と顔を見合わせてもボクだってなにがあったのか分からないから首を傾げるしかない。
しかしながら、いつもの調子じゃないのだから、気にはなる。
「千織部長」
「…………」
反応はなかった。愛理先輩にも目配せするけどあんなにべったりな距離感なこの人でも分からないみたい。
仕方ない。潔癖症ってわけじゃないけど、人に触れるのもそこまで得意じゃないのをおさえて千織部長の肩を軽く揺する。
「千織部長」
「……──あ、う、うん……? な、なにかな?」
ようやく反応を示してくれた。とはいえ、焦点が合っていないようにも見える。それに──。
(嫌な気配がする……)
一瞬、眉根を寄せつつも努めて心配そうな顔を繕って聞いてみる。
「千織部長。何かあった?」
「えっ? …………あーいや、なんでも……ないよ」
嘘だ。
もう半年以上の付き合いだから千織部長の“クセ”が分かっている。
千織部長は嘘をつくときに目を泳がせた後テンプルを撫でるクセがある。ちなみにテンプルはメガネの横部分のことを言うらしい。
「部長〜? そうは言いますけど、ここ2日、3日ちゃんと慣れてないんじゃないですか〜?」
「うっ……そ、それはそう……だが……っ!」
何か言いにくいことでもあるのだろうか。
けどあからさまに疲れたような顔つきは……放っておけない。
「あんま言いにくいことなら聞かないほうがいいと思うっすけど……さすがに今の部長は見てらんないっすよ」
「うぐ……」
「そーですよー部長〜」
千織部長は視線を彷徨わせた果てにボクを見てくる。やっぱりいつもの千織部長の目……とは言い難い。若干の曇りがある。
『何か言ったほうが良いだろうか』と迷いのあるのが見て取れて声をかけたボクだけど少し戸惑っているのもある。
けど、すぐに迷いを捨てて千織部長の目を見つめながら頷く。
「千織部長。どうしてここ数日ちゃんと寝れてないのか教えて」
「…………しかし教えたとしても
「良いから」
千織部長の目線に合わせるためにテーブルに肘をつけながら床に膝をつける。
すると愛理先輩が椅子を持ってきてくれて感謝を告げながら座る。
「ボクだって千織部長たちに過去を話したんだから変わらないよ。どうせ起こったことなんて全て過去だし、千織部長に何か起こったとしてもボクはしっかりと聞くから」
ボクの言葉を聞いて渋々といった反応だったけどどこか諦めた調子で「分かった」と頷き、事細かに話してくれた。
──────
────
──
最初に見たのは1週間も前の深夜くらい、かな。
起きたのがもう朝日が昇った5時ではあったからね。
その夢というのが、私が
それがどうして分かったかといえば、通学では使用はしないけど、休日に使うことがあるからなんだ。
で、なんだが、空は暗かったね。本来あって良い星も無くって、どこか寒々とした感じだった。
勿論、周りも静謐のひと言。だから余計に恐ろしく感じて、何度もキョロキョロしていたね私は。
うん? あぁ、なんでこんなに覚えてるのかかい? ……あまり誇らしいことじゃないんだけど、私は夢で見たものはあまり忘れないんだ。
さて、話を戻すけど、そんなふうに動く私の耳にね声が聞こえたんだ。
『今から来る電車に乗ったらダメだ。かなり酷い目に遭う』
男、の声で…………そう、宗馬くん。きみに近い声だ。でも、かなり無機質で抑揚のない声だった。
あー違う。もう少しトーン落として、1音1音一定で……そうそう。そんな感じ。
その声がした後にふたつの若干黄色い丸いライトが右から向かってきたんだ。
すぐに電車だと分かった。というかこんな夢は都市伝説だと思っていたし、まさか自分がともね。
どんな電車だったのかって?
そう……だね。ルーズリーフ持ってるかな? あぁ、ありがとう。こんな感じの電車だったね。
そうそう。作りは青い森鉄道のなんだけど、機体? 車体? にデザインされてるのがデフォルメされてるとはいえ、配信者とかがやってた追いかけっこのホラゲーあるでしょ? あんな感じのがね。
2
あっ。と思った時にはすでに電車の中さ。
振り向いたら扉は閉まって電車が動き出し始めた。
私はもう、諦めて適当な空いてる席に座ったよ。
時間はよく分からない。数分か10分程度か……どれくらいか経ってから、気づいたら人の気配は増えていて、アナウンスが響いた。
『次はぁ〜、活け造り〜、活け造り〜』
無機質な声が響いて、ほんとにまずいなぁと思ったら耳を
そちらに急いで目を向ければ、スーツを着た男性が目をぐるんと白目を向いて、体はひん剥かれ、血で汚れた口には飛び出た舌を器用に花を造っていた。
夢の中とはいえ、目の前でそんな光景を見てしまったものだからさすがに夢から早く醒めて欲しいとこれでもかと願ったね。
『
また流れたアナウンスはこれも無機質な声のはずなんだけど、あからさまに嫌悪感を抱かせるような喋り方で、なんとも耳心地が悪いと言ったらたまらない。
アナウンスが終わった後、私が座っている席からは数席ほど離れた椅子に座る白のノースリーブを着た女性がいたね。
その女性の目に先がジグザグしたスプーンをゆっくりと焦らすように挿入して、ぐるりぐるりと抉りながら出していた。
声を上げようとしたけれど無理だった。
喉のちょうどてっぺんまで出ていたのが無理矢理押さえつけられてる感覚だった。
じゃあ今度は体だと動かそうとしたが、ダメだった。まるで瞬間接着剤でくっつけられたように動かなかった。
そうこうしているうちにアナウンスがまた響いた。
『つ、つつ次ッ、は、ははは、〜ァ? ヒッ、ヒヒヒッ! 挽肉ッ、挽肉でッす!』
全然無機質だがついに狂い始めたアナウンスの声。
アナウンスが終わったとき、目の前から円筒のようなものが私の体の向きと垂直になって、先端に向かうほどに尖っていて、先端には穴があった。
円筒の位置は、ちょうど心臓。
少しずつ少しずつ円筒が近づいてきてるのを黙って見ているしかなかった。
距離が近づいたときにキュウイーンっていう音が聞こえたね。
あぁ、やばい。死ぬ。このままだと私は死ぬ。目を覚ましてくれ。早く。いち早く。こんなことで死にたくない。早く醒めてくれ。頼む。頼むと強くいつの間にか願っていた。
円筒が私の体に接触しかけた瞬間に目を覚ました。それが初日に見た悪夢だったよ。まだこれだけならなんともなかった。
しかしこの夢は厄介なものでね……。
寝れば電車に乗ったところから始まる。今は4回ほどかな見たのは。ここ2日寝ずにいるよ私は。
…………ふぅーーーーー。うん。正直ね。こんなものを見るだなんて思っていなかったよ。
いくら体験してみたいだとか言ったり願っててもこれはダメだね。早く安眠したいよ……私は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます