8.三面鏡破砕事件②
ボクが最初に視た姿は黒っぽい制服に長い黒髪の女の子だった。
そして今、ボクの左横に居るのは髪型こそ同じにすれ、服装は制服に見えていたけど実際は違った。
ゴスロリと言えば良いだろうか?
西洋人形みたいな服装をしていた。
顔つきはまるで影に覆われてるようで定かじゃない。だが目だけは見えているそんな状態。
「えっ、どうしたんですか!?」
「い、いるのかい!?」
先輩ふたりの声に頷く。
ボクの目線で宗馬は分かったようで両目を彼の大きな手で隠してくれた。
「今、唱えるぞ」
『あら、お話したかったんじゃなかった〜?』
「…………!」
この幽霊、やっぱり会話出来る!?
覆われた目を見開く。
「何か言われたのか?」
「う、うん。話がしたかったんじゃないかって」
「けど……お前の目を開けさせるわけには」
「…………ちょっと待って。ね、ねぇ、薔薇……さん? このまま目を閉じた状態でも良い?」
気配としてはまだ目の前にいるであろう
『まぁ、会話は出来そうな子だからそこは良いわよ』
良し、了承を得た。
ボクは宗馬にこのままで大丈夫と告げて、薔薇さんに向けて口を開きかけた時。
『でも不思議。あなた、
「…………確かに嫌い、だよ」
こっちが存在に気づいてるからって勝手に嗅ぎつけられるのが嫌だ。
そのせいで一体どれだけの被害を被っただろうか。思い出すだけでむかつく。
『ふんふん。あなたの感情が伝わってくるわ。たくさん辛いことがあったのねぇ……その目はさぞ不便だったでしょうね』
「……きみは他のヤツらと違うんだね」
こちらを慮る声音で少し驚いた。幽霊というのはいつも自分中心、自分本位で迷惑をかけてくる存在だと思っていたからだ。
『あー、
「そ、そんなにここにいたの!?」
「何に驚いてるんだ?」
「あっ、えっと……
後ろで驚くような息遣いが聞こえた。
宗馬もまた「おぉ」と声を漏らした。
「なぁ、そいつって何があって生まれたんだ?」
『あー
宗馬の質問も聞こえてるようで、あっけらかんと返したのをボクが伝える。
「そう……か」
『あなたのことはなんとなーく分かるわ。阪原さんとこの人でしょ。あそこには世話になったのよねぇ。……そう。こんなに育った子が出来たのね』
あれ……この人に宗馬のこと伝えたっけ。いや、伝えてないはず。それに寺は他にもあるしなんで分かったんだろう……?
「……い。おい。何を言っていたんだ?」
「へっ? あ、えっと……宗馬の家だね。阪原さんとこでしょって」
「へぇ、よく分かったな」
『あーだって
「…………うん? 慎慈?」
「おん? なんで爺ちゃんの名前呼んでんだ?」
ポロッとお爺さんの名前を呟くと宗馬が首を傾げた。
『あらー、やっぱり60年も経つと孫くらい出来るわよねぇ。って
そういえばそうだった。ボクは聞きたいことがあったんだ。と目的を思い出してまだ目の前にいるだろう薔薇さんに伝える。
『そう。あの三面鏡がねぇ……あなたはあの鏡にも何か感じたのよね?』
「うん。けど一瞬だったと思う」
千織部長が手を伸ばしていたときの黒いモヤとボクが開けた後に聴こえたな。けどほんとに一瞬だったから気のせいだと思いたい。
『あー、気のせいじゃないわ。あの子、イタズラが好きなのよね三面鏡の三ちゃんは』
「気のせいであって欲しかったなぁ……」
こうして話して分かったのはこの人は悪い人ではないこと。いや、幽霊だから人ではないか。
「どうした?」
「ボクは、大丈夫だから」
宗馬の大きな手を両手で優しく退かす。
なまじボクより背が高いからか、後ろから抱きしめられてるような状態になってるのに気付いて離れる。
改めて薔薇さんを視る。
ちゃんと足もあって、靴はヒールだろうか?
靴底は5cmほど厚くてようやくボクと同じ背丈。
顔はまだ目より下は影で見えない。
「きみは他の七不思議できみと同じような人がいるのは分かるの?」
紫紺色の瞳が暗いトイレの中で輝いて見えた。
ボクの言葉に少しずつ細くなった。
『分かるわよ。でも、教えないわ。それはあなたが視てほしいもの』
「そ、そっか。視たくないんだけどな……。ってそうだ。最初の時は顔が視えたと思ったんだけど、なんで今顔を隠してるの?」
『あーこれ? なんだろ……正装ってやつかしら。別に出しても良いけど……あなたは苦手でしょう? だから隠してるのよ』
あぁ、ボクを気遣ってくれてるのか。
やっぱりこの人優しいな。
「ありがとう薔薇さん。それと、もうひとつ聞いてもいい?」
『えぇ、どうぞ』
「三面鏡を割ったのは、その幽霊? それとも別の人?」
『その答えは…………その子が持ってるわよ』
薔薇さんの服装とは真逆の真っ白な指が後ろを指した。顔を向けるとその指は──。
「──えっ、千織、部長……?」
「どうしたんだ? なんで部長を?」
「…………?」
ボクの視線と声に目を丸くして顎に指を当てながら首を傾げる千織部長がいた。
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